はじめに

米国における二分された見通し

日本以上に高いインフレ率に苦しむのが米国です。昨年の6月には前年同月比+9.1%と40年超ぶりのインフレを記録した後はFRBが過去に例がないほどのペースで利上げをしたことで、徐々にインフレ率は鈍化しているものの、足元でも同+6.0%と依然として高い水準を維持しています。FRBは金融政策については「データ次第」という言葉を使って運営方針を表現しており、少なくともその言葉を額面通りに捉えるのであれば、まだ利上げは続けていくということになるでしょう。

しかし、3月に入って銀行破綻が相次いだこともあり、市場では利上げはもう行われず、秋からは利下げサイクルに突入するというコンセンサスが形成されています。つまり、米国では金融政策に対する見通しが2つに割れており、市場関係者や当局の要人の発言もタカ派なものからハト派なものまで、多種多様となっています。

足元では相次いだ銀行破綻はリーマンショックの再来とはならない、と考える人が多く市場環境も落ち着き始めましたが、仮に新たに破綻する銀行が再び現れたり、ウクライナ戦争で戦火が拡大したりするなど、外部環境が悪化すれば市場が織り込んでいるように利下げサイクルに突入する可能性もあります。逆に銀行破綻の影響が拡大せずに、ウクライナ戦争も終結に向かっていけば、インフレ退治が優先事項となり、利上げが今後も継続されるという展開になると考えます。

インフレ退治とオーバーキル懸念

FRBは当初はインフレを「一過性のもの」であると認識していたため、利上げのタイミングが遅れたという反省意識を持っているでしょう。そこで、インフレをしっかりと退治するために、「データを見ながら」と言いつつも、景気を減速させてしまうギリギリのタイミングまで利上げを続けようとすると考えます。

しかし、例の相次ぐ銀行破綻が銀行業界に及ぼす影響を十分に把握しないまま、利上げを続けるのはオーバーキルを引き起こす可能性が高いと考えます。オーバーキルというのは「やりすぎて景気を殺してしまう」ことを意味します。

今回の相次ぐ銀行破綻を受けて、銀行各社は自主的に融資基準を厳格化したり、貸しはがしを行ったりするはずです。これはまさに金融引き締めを意味します。銀行各社が自主的に引き締めを行う可能性が高いにもかかわらず、そこを考慮せずにFRBが利上げを続けてしまうと、イメージとしては一番上の蛇口を閉めながら、その下に並ぶ蛇口も同時に閉めることになりますから、その引き締め効果はこれまでの利上げ以上のものとなるでしょう。

また、今回のインフレは必ずしも供給が需要に追い付かずに物価が上昇しただけでなく、単純にエネルギーや食品価格が上昇したことも要因の1つであり、このタイプのインフレ要因は利上げをしても抑え込めないということにも注意が必要です。

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