はじめに

物価は持続的に上昇傾向?

問題は、物価上昇と低金利はいつ解消されるのか、ということです。

先ほど、「物価上昇率に対する預貯金利率の感応度が悪くなっている」と言いました。本来であれば預貯金であったとしても、インフレリスクを最低限ヘッジできる程度の利率は付与されるはずです。そうでなければ、いくら預貯金が元本保証だとしても、実質的に元本を割り込んでいるのと同じになってしまいます。

しかし、これからは物価上昇率に対して、預貯金利率が負けることが増えるのではないかと考えます。理由は、構造的に物価が上昇しやすく、同時に預貯金利率が上昇しにくい状態になっていると思われるからです。

まず物価については、国内外で物価上昇圧力が強まりそうです。国内では人手不足によって賃金が上昇するのと同時に、それが製品価格などに転嫁されるようになるでしょう。実際、食品価格はこのところ値上げが続いています。

一方、海外に目を向けると、自由主義経済圏を中心にして、これまで安い製品を世界に向けて輸出してきた中国を、グローバルサプライチェーンから外す動きを見せています。資源価格もロシアの関係悪化により、高止まりこそすれ急激に下がることはないでしょう。

以上の理由から、物価は良くて高止まり、悪ければ持続的に上昇傾向をたどることも、十分に考えられます。

高齢者もリスク資産を持ち続ける必要性が高まる

これに対して、預貯金利率が上がりにくいと考えるのは、日本国内に資金需要がないからです。

東京商工リサーチが定期的に行っている「預貸率調査」によると、2022年3月期における、国内106銀行の預貸率は61.9%でした。預金が100あるとすると、貸し出しは61.9しかないという意味です。銀行は集めた預金を貸し出して、その利ざやを収益としています。銀行にとって貸出先は運用先とイコールなので、預金に比べて貸出が少ないと、そのギャップは銀行にとって収益を減らす要因になります。

とはいえ、人口が減り、国内需要が落ち込みつつある日本国内には、そうそう大きく資金需要は生まれません。

したがって、銀行としてはさらに預金にお金が集まる状況を、出来るだけ避けたいと考えているはずです。だとしたら、銀行にとって預貯金の利率を高めてお金を集めるインセンティブがありません。預貯金利率の感応度が、物価上昇に対して悪くなるのではないかと考える根拠が、これです。そうなると安定資産、とりわけ多くの人に馴染みのある預貯金に大きく偏ったポートフォリオを持った場合、実質的に資産価値を目減りさせる恐れがある、と考えられます。

これは高齢者の資産管理・運用においても、例外ではありません。高齢者のポートフォリオにも、長期で保有できるリスク資産を組み入れ続ける必要性が、これからは高まっていくでしょう。

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