はじめに

投資詐欺に陥るまでのストーリー

詐欺師は言葉巧みに「預ければ半年で2倍になります」「絶対に損しません」「何もしないでもお金が増えていく」「指示どおりやればどんどん増えていきます」など、とにかく儲かりそうな言葉を並べてきます。得する人がいる一方、損する人もいなければ、どこからお金が湧いて出て来るのか説明がつかないはずですが、損をする可能性について説明がないことがほとんどです。

被害にあった方の多くは、相談時に「どうしてそんなに儲かるのか、仕組みはよくわからなかったけれど、とにかく儲かるということはわかった」というようなことをおっしゃいます。仕組みがわからないのに、どうして儲かることだけがわかるのでしょうか。「儲かる仕組みがわからない」ということ、それは、その話が詐欺だからではないか、と疑いの目を持ってください。

詐欺師からはまず、投資経験があるかどうかを聞かれることが多いようです。自分でいろいろ調べて儲けた経験がある方なら、ちょっとした自信もお持ちかともいます。詐欺師から、少し専門性の高そうな言葉を並べて、「この程度のことならもうお分かりだとは思いますが、一応説明させていただきました、退屈でしたらすみません」などと話をされると、よくわからなかったことも、分かったことにしたくなってしまうというのが人間の心理だと思います。

逆に、投資の経験がなければ、専門性の高そうな言葉と「初歩的なことから説明させていただいています」と言われると、何がわからないのかもわからないまま、とりあえず話されたことが真実だと前提づけてしまいがちなのも、人間の心理だと思います。

そうして、よくわからないまま相槌を打っていると、あれよあれよと相手のペースになっていきます。気づいたら「この話に乗り遅れたら損をする」「こんなうまい話に出会えて自分はついている」、そんな気持ちになって、前のめりに投資をしてしまう方が多いように思います。お話を聞いていると、最初は慎重に、いきなり数百万円のお金は預けたくないが「儲かりそうだし、ためしに少額なら……」と、初回で200万円以下の投資をされることが多いようです。

私が実際に相談を受けた事件をそのままご紹介するわけにはいきませんが、参考にして具体的なケースを紹介します。

Aさんは、投資に詳しいという会社経営者のXとSNSで知り合い、実際に会ってXがやっている投資の話を聞いたところ、よくわからないが非常に儲かる話だという印象を抱いたそうです。その際、Xから200万円を預ければ1ヵ月後に50万円増えると言われ、迷いながらも200万円を銀行から引き出してXに手渡し、X経由で投資してもらうことにしました。

それから1ヵ月後、Xから実際に50万円の利益が出たと報告された際に、さらに500万円預ければ1ヵ月で150万円増えると提案され、Aさんは最初の投資金と利益に手持ちの250万円を加えて、合計500万円をXに現金で手渡ししました。

この結果、また150万円の利益が出たとXから報告された際に、今なら1口500万円のコースに2口申し込めると提案されました。「人気があるので定員に達したら応募できない」「さっき確認したらもう残り数人だった」と言われ、Aさんは前回の投資資金の500万円と今回出た利益の150万円、そこに手持ちの350万円を加えて、合計1,000万円を投資することにして、Xに現金を手渡しました。

Aさんはその後、まとまったお金が必要になったので、Xに投資の元本と利益を引き出したいと連絡したところ、Xから「税金の関係で200万円の支払いを前払いしてもらわないと支払いができない」と返信がきました。そんな話は聞いたことがないので、すぐに返金をしてくれと返答すると、Xからの連絡が途絶えました。不安になりAさんが確認すると、XのSNSアカウントや、SNSに記載されたXが経営する会社のサイトは削除されており、Xと連絡がとれなくなりました。

この時、Aさんは合計800万円を手持ちのお金から支払いをしています。非常に残念なことに、Xの情報を特定することができず、交渉すらすることができませんでした。

投資詐欺では、初回から何回かは、儲かっているような数値を報告されることが多いです。そこで実際に引き出してもうおしまい、とすれば、実際に現金に換金してもらえるケースもあるのかもしれません。しかし、ここで詐欺師は言葉巧みに追加の投資話に誘導してきます。儲かった経験から、多くの方にその資金にプラスして追加投資、という行動をとらせているようです。

そして、「これ以上は無理だ」と思い現金化を希望すると、その段階で連絡が取れなくなるとか、税金の支払いや手数料の支払いのために金銭の振り込みが必要だとか、換金手続きが取引先の国の都合で止められている……など、何かと理屈をつけて追加のお金の支払いの請求をしたり、現金化ができないと回答してきます。

この段階になって、これまで信じていた方も「自分は騙されたのではないか」と疑いを持ち始めますが、なかには藁にもすがる思いで追加の支払いに応じてしまう方もいます。メールの履歴や、SNSの履歴、アプリの取引履歴を証拠のためにスクリーンショットして保存して、なんとかなるはずだと現金化を待つことになります。

しかし、とても残念なことに、この段階で元本や利益分の現金が返されることはまずありません。私がこれまでに受けて相談の経験上ですが、年収によって変動しますが、800万円から2,000万円程度の投資を済ませると、詐欺師側と連絡が取れなくなったり損失が大きくなってきたり、現金化ができないという話が出てくる印象です。

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