はじめに

近年特に多い恋愛感情を利用するケース

相手への信頼を得るための手段として、恋愛感情を利用するケースもあります。このタイプは、「ロマンス詐欺」という名称も付けられており、近年急増しているものと思います。そして、被害金の回収が他のケースと比べても難航する場合が多いです。

詐欺の仕組みとしては、前述のケースと差はないのですが、相手の信頼を勝ち取るまでの流れがやや特殊です。儲けたいという投資者の欲望に働きかけるのではなく、この人との関係を維持したい、深めたい、この人を助けたいという、相手に対する恋愛感情を利用して投資させます。

このケースでは、詐欺師と出会うのは恋愛を目的としたマッチングアプリやデートアプリが多いです。相手の素性はわかりませんが、魅力的な異性の写真やプロフィールを用いて接触してきます。ロマンス詐欺の手口の一つを紹介してみたいと思います。

出会いを求め、マッチングアプリに登録したBさんに、すぐにいくつか「連絡を取りましょう」と接触してくるアカウントがありました。それらは2通目のやりとりで、「アプリとは別のプライベートなトークアプリでやり取りをしましょう」といって、自身のトークアプリのアカウントを伝えてきます。

Bさんがトークアプリでのやり取りを辞退すると、あるアカウントは何度かしつこく誘ってきますが、その後マッチングアプリのアカウントが消され、メッセージの履歴などが確認できなくなりました。一方、Bさんがトークアプリでのやり取りに応じたアカウントでは、トークアプリで繋がったことを確認したとたんに、マッチングアプリのアカウントが削除され、メッセージの履歴が確認できなくなりました。

まずアカウントを削除するという動きは、マッチングアプリの本来の使用目的を考えると非常に不自然です。アカウントを削除することで、本人の情報を追うことが非常に困難になります。こういった行動をとられたら、疑いの目線を持ったほうがいいと考えます。

またトークアプリでのやり取りは、こちらからの質問に対してかみ合った回答をせずに、自分の言いたいことだけを長文でメッセージしてくる傾向があります。回答のかみ合わなさを指摘して何度もしつこく同じ質問をすると、トークアプリのアカウントがブロックされたり、アカウントが消されたりします。かみ合わないと思いつつ、相手とのやり取りを一応継続すると、やり取りを続けられますが、こちらの送信に対して非常に短時間で非常に長文のメッセージを返してくるので、別の場所に作成した返信をコピーアンドペーストしているのではないか、という疑いがあります。

トークアプリでのやり取りを開始して2日目か3日目には、「あなたより素敵な人に会ったことはない」とか、「実は今とても困っていて、その問題が解消しないとあなたに会えない」とか、「自分は投資に興味があり、投資のことを考えられる人を素敵だと思う」とか、「将来のパートナーには、投資をきちんとできるようなしっかりした人が好ましい」というような話をされたということです。それぞれの話を深く追求すると、そこから投資の話に勧誘されていくことになります。

会ったこともない相手と数日トークアプリでやり取りしただけで、そこまで思い入れを抱けるのかと疑問に思ってしまいますが、マッチングアプリを利用する方の「できるだけ素敵な人に出会いたい」という気持ちを逆手にとり、完璧すぎるようなプロフィールで「こんな素敵な人には二度と出会えないかもしれない」と思わせ、その気持ちに漬け込む手口は、非常に悪質だと感じます。

ロマンス詐欺の厄介なところは、ほとんどのケースで相手の素性を特定することが難しいことです。マッチングアプリのアカウントが削除されていたり、トークアプリのアカウントも削除されていたり、仮にアカウントが残っていてもそこから本人を特定する情報が得られない、という場合がほとんどです。私もたくさんの相談を受けますが、詐欺として警察が捜査しない限りなにもできない、というのがほぼ全てです。「警察に相談してください」と言う以外に何もできず、そんなアドバイスしかできないことは弁護士として本当に情けない限りですが、ドラマに出てくる弁護士のように、警察顔負けの調査をすることは実際にはできないです。とにかくご自身で気を付けていただくしかない、というのが現状です。


今回は、投資詐欺の具体的なケースを紹介しました。こうして文章で読むと、どうして騙されてしまうのだろうかと思われる方も多いかもしれません。

弁護士として被害者の方から相談を受ける際は、不自然な点や詐欺と関係ある点を中心に聞きますから、どうやってその人を信頼していったのかという、人間関係の構築の部分はあまり紹介できていないからかもしれません。それに、詐欺師は口八丁手八丁で相手に信用させてその気にさせるプロですから、信じてしまうことはやむを得ないと感じます。この記事を読んで、「詐欺の事例で聞いたことがあるな」と頭によぎるだけで、冷静な判断を促す可能性が高くなり、防御力がぐっと高くなると思います。

次回は、詐欺にあったときどうすればいいのか、もしもに備えてどんな行動をしておくべきなのかをお伝えしていきたいと思います。

【後編】弁護士が「投資詐欺だ」と感じても、裁判で勝つのが難しいのはなぜなのか?

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