はじめに

オールカントリーの投資信託のコスト引き下げ相次ぐ

世界全体の株式の動向を表す指数であるMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)に連動する投資成果を目指す低コストファンドは数多くあり、日興アセットマネジメントのほか、野村アセットマネジメント、三菱UFJ国際投信、アセットマネジメントOne、りそなアセットマネジメントなど、各社が激しく低コスト競争を繰り広げています。

その始まりは4月26日(水)、日興アセットマネジメントが「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」の信託報酬が0.1%を切る、年率0.05775%(税込)という低コストを実現したことが、戦いの火蓋を切ったように思います。

Tracers MSCIオール・カントリー・インデックスは、業界最低水準の運用コストのオルカン投資信託で、純資産額1位の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」と同じベンチマークですが、そちらの信託報酬0.1133%(税込)と比べ、約半分の低コストとなっており、大きな話題となりました。

ただ実質的な運用コストは信託報酬だけでなく、その他の手数料(隠れコストと呼ばれることも)も重要で、Tracers MSCIオール・カントリー・インデックスの運用が開始されて運用報告書に総経費率が掲載されるまでは、実際のコストを比較できるようにならないことは覚えておいてください。とはいえ、インパクトのある信託報酬だったといえるのではないでしょうか。

対抗するかのように、7月10日(月)には野村アセットマネジメントが「はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー)」という、信託報酬を年率0.05775%(税込)とする新ファンドを設定。

そして8月18日(金)、とうとう三菱UFJ国際投信が動きます。eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の信託報酬率を、9月8日(金)より年率0.05775%(税込)以内に引き下げると発表したのです。

人気のオルカン投資信託は?

それでは、どのオルカン投資信託が人気なのでしょうか?

一番人気のオルカン投資信託というと、純資産額1位で、「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2022」で1位を獲得しているeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)だといえそうです。

eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)は、MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)に連動する投資成果を目指すインデックスファンドです。MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックスは、MSCI社が開発した株価指数で、日本を含む先進国および新興国の大型株・中型株の約3,000銘柄で構成され、世界各国市場の時価総額約85%をカバーしています。全世界の株式に分散投資できて、つみたてNISAやiDeCoの対象商品となっています。

コスト引き下げの狙いと投資家のメリット

運用会社が信託報酬率を引き下げる狙いとしては、以下が考えられます。

(1)新規顧客の獲得
より低いコストで提供することで、新たな投資家を引きつける狙いがあります。特に新NISAは投資家の関心が高いだけでなく、これから投資を始める層も取り込め、加えてオルカンは投資初心者から上級者まで検討する投資商品といえるため、力が入っていると推測されます。

(2)既存顧客のロイヤリティ確保
コストを下げることで、既存顧客が他の商品へ移るのを防ぐことができます。今回はオルカン投資信託についてお伝えしましたが、オルカン以外にも人気の投資信託のコスト引き下げを発表している運用会社も多くあります。

(3)ブランドの信頼性向上
コストを引き下げることで、投資先として検討しやすくなり、投資する人が増えることで純資産も増え、認知度も上がってブランド力が増すことになります。そうして顧客からの信頼を勝ち取ることで、長期的なビジネスの成長を支える狙いがあります。

一方、投資家目線でのメリットも、以下に挙げます。

(1)コスト削減
運用コストが下がることで、投資家の収益性、将来の運用成績への寄与が期待できます。運用コストの開示方法が、運用会社や投資信託によって異なることは注意しておきましょう。

(2)多様な選択肢
金融機関や運用会社間の競争が激化することで、より多くの投資商品やサービスが提供されるようになります。比較検討する上でも、選択肢が多いことは投資家にとってプラス。目論見書もしっかり読みましょう。目論見書について詳しくは、以前の連載「投資信託の【目論見書】で初心者が見るべきポイントとは?金融アナリストが教える活用法」を参照ください。


新NISA(少額投資非課税制度)は、投資家が特定の金融商品に投資した場合に、その収益が非課税となる制度で、これにより投資を促進し、資産形成をサポートすることが目的とされています。

新NISAを見据え、オールカントリー投資信託のコスト競争が加速しています。金融機関にとっては新しい顧客の獲得やブランドの強化のチャンスであり、投資家にとってはより良い条件での投資が可能となるメリットがあります。

この動きをしっかりとキャッチアップし、最適な投資戦略を組み立てていくことが重要です。

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