はじめに

まずは現状把握

会社員時代は、毎月決まった日に給料が入り、いつもと同じように生活をしていれば、日々が回っていきました。しかし、いつまでもの就労収入が続くわけではありません。「なんとなく」消費をしている人は、家計の収支を把握することから始めましょう。

毎月決まって使う支出もあれば、不定期に出て行くお金もあります。直近1年間を振り返り、家計がどのような状態なのか確認します。細かい費目が分からないものは気にせず、ざっくりとでもいいので、家計のサイズ感を把握します。

同時に、資産と負債も確認しましょう。

預金、有価証券、保険、住宅ローン、その他の借り入れなど、現時点での残高を一覧にしていきます。預金については、預け入れ期間と金利を書き入れます。有価証券は、その内容も詳しく記録します。塩漬けになっているものは、この際、再度評価を行い、売却をするなどします。保険も、払込が終了しているものもあるでしょう。保険期間の確認と保障内容をチェックして、これから必要なものかどうか吟味します。

借り入れについては、残債と金利、完済までの期間を確認しましょう。住宅ローンを完済している場合でも、今後の住まいとして継続して住めるのか、手を入れる必要はあるのか、住めなくなるケースは想定されるのか、そうなったらどうするのかも決定せずともいくつかのオプションもあわせて考えておきます。

退職金も一時金で受け取るものもあるでしょうし、年金で受け取るものもあるでしょう。一時金なら、手取り額はいくらなのかを確認しましょう。受け取り方で手取りが変わることもあります。年金で受け取る場合は、期間と金額を確認します。多くは確定年金でしょうから、5年、10年などの期間が決まっています。期間が過ぎると、その年金収入はなくなるので、今後のキャッシュフローを設計する上で重要な情報です。

退職金を年金として受け取ると、公的年金等控除の枠を消費してしまいます。公的年金も合わせて受給すると課税対象となる金額も大きくなります。年金生活になっても、健康保険、介護保険の支払は発生します。もちろん所得税、住民税も支払います。公的年金は受け取り時期を遅らすと年金額が増えます。場合によっては、企業年金と公的年金はリレー式に受け取り時期をずらした方がよい場合もあります。

老後のキャッシュフロー設計のポイント

長い老後と向き合う際、多くの方が「いつお金がなくなるかが、一番不安だ」とおっしゃいます。何歳まで生きるか分からないので、結果いくらあれば安心なのかが分からないのです。

これもケースバイケースのアドバイスではありますが、基本的な生活費がまかなえる繰下げタイミングを探すことから始めるのも一考です。都内だと認知症となり、グループホームなどに入居すると、月15万円から20万円くらいかかると言われています。仮に20万円を1人で生活ができなくなった際の施設入居費だとすれば、その金額が公的年金でまかなえるのかどうかを調べるのです。

例えば、65歳からの本来支給年金額が月14万円だとすれば、72ヵ月繰下げすると、年金額は月21万円になります。つまり、71歳からは年金だけで施設費用がまかなえるということになります。仮に75歳まで繰下げると、月25万円になります。概算ではありますが、月14万円の年金額は、平均年収400万円で40年間厚生年金に加入した場合の年金額に相当します。

では、公的年金の受け取りは75歳からと仮置きしましょう。65歳までは就労収入で生活費をまかなえば、その後の10年間が無年金の期間となります。仮に生活費が月25万円だとしたら、10年間で必要なお金は3,000万円です。75歳以降は年金だけで基本生活費がまかなえるのですから、3,000万円準備できれば「お金がいつなくなるのか」の不安から解放されます。

次に行うことは、3,000万円が準備できるのかどうかです。今ある資産で足りるのか、もし足りなければ生活費を見直せるのか、いくつかのパターンを想定しながら検討していきます。

その上でNISAは、無年金期間の資産の取り崩しようとして活用します。新NISAは年間360万円までの投資枠のうち、240万円までは一括投資も可能ですから、退職金などのまとまったお金を入れることもできます。ただし、金額が大きくなればますます「時間分散」は重要ですので、ここは複数回に分けて投資を行うのが基本です。

また少額でも構わないので、積立は継続します。60歳の月2万円の積立は、15年後にはきっと増えているでしょうから、それを75歳の自分がお小遣いとして使います。61歳の月2万円の積立は、76歳の自分のお小遣いです。

公的年金や企業年金、あるいは個人年金保険などは、収入とみなされ、課税対象となりますが、NISAの口座から引き出したお金は収入とみなされません。もちろん税金もかかりませんし、社会保険料の対象にもなりません。高齢期のお金の保管場所として、上手に活用したいものです。

60代は、100歳までの40年間におけるお金の配分を考える時です。今あるお金、これから作るお金、遺すお金の配分を考える際は複数のパターンを想定して考え、適時見直しをします。自分の状況を冷静に把握し、自分のありたい将来像を自分の考えで描いていきましょう。老いてく時間を豊かで楽しいものとするのも自分次第と考えます。

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