はじめに

単価を上げる努力も必要

小島:いまはあらゆる業種、業界で値上げが進んでいますよね。これも有野さんがおっしゃるように時代の流れだと思いますが、仮に免税事業者がインボイスに登録したとしても、商品の単価を上げることができれば、売上の大幅な減少はなくなるはずです。たとえば、芸人さんの舞台のチケットの価格を数百円上げれば、芸人さんに支払う消費税分を興行側がかぶったとしても、大きなダメージにはならないと思います。

有野:確かに、上がってないもんはないやろってくらい、いろいろなモノの値段が上がってますし、チケットの値段が上がってもおかしくはないか。嗜好品とか消耗品は、中身の量を減らしたり、消費者側も買う数を減らしたりして調整できるけど、舞台とかエンタメに関しては「数を減らす」ってできんからなぁ。値段据え置きで講演時間を減らしても、そう言うことではないし、出演者を減らすって事でもない(笑) そうなると、チケットの価格を上げるしかないもんな。

小島:すでにエンタメ業界では、チケット価格が上がってますよね。

有野:上がってますね。昔は動員数、劇場の大きさでチケット代ってなんとなく決まってたけど、初めは単独ライヴで2,000円で、会場が大きくなって3,600円になって、事務所の先輩の値段は越えられへん、ってなってた時代もあったけど、みんな4,000円越え出して。「映画の倍の値段取るの?」って、値上げが怖くってしょうがなかった。ただ、オンラインでの配信も増えた分、チケット代は下げたり据え置いたりして、配信で料金取ったりするケースも出てきてます。このシステムがしっかりしてる会社は若手が潤う、っていう。

小島:インボイスに限らず、やはりどの業種、業界であっても世の中の変化に対応するのは大事ですね。

有野:ただ、お笑いだとそのシステムを持ってるのが、今のとこ吉本興業だけやけど(笑)

小島:そもそも、インボイスに関しては「売り手側が弱い立場」という前提で話が進むケースが多いのですが、売り手側がある程度結束して、「そちらがインボイスじゃなきゃダメというなら、こちら側は売るのを止めます」というケースも出てくるはず。つまり、一概に売り手=弱いとも言い切れず、あくまでケースバイケースだと思うんですよ。

有野:なるほど、買い手側が強いばかりじゃないと。買い手側には「インボイスやらないと取引やめるよ」って圧力をかけたら違法って話ですけど、本来は弱い側でも、まとまれば状況は変わるかもしれへんわけか。なんだか「毛利の3本の矢」みたいな話ですね。なすなかにしにも「ちゃんと結託しとけよ、3本の矢や!」って提案をしとこうかな(笑) 「僕らコンビですけど、なんで矢が3本なんすか? 2本でもいいですか?」って言われそう。

小島:重ね重ねお話ししますけど、現在は買い手側と売り手側で“腹の探り合い”をしている状態です。制度自体をなくすことは難しいですし、政府も制度自体の有無ではなく、経済対策による支援をする方向に進んでいます。ですから、腹の探り合いが良い方向に傾くように動くべきだと思います。所属芸人の皆さんで徒党を組むのもいいと思いますが、ぜひ健全な話し合いをしてくださいね。

有野:“様子見”やと思ったけど、“腹の探り合い”って表現がしっくりきますね。確かに。それなら、松竹芸能との交渉を北野誠さんにお願いしたら、ややこしくなりそうだから止めておくか(笑) でも、授業のおかげでインボイス制度がなんで騒がれているのか、自分にも関係があることだ、ってのがわかりました。先生、ありがとうございました!

10月からは、金融アナリストの三井智映子( @chiekomitsui )先生をお迎えし、「株式投資の魅力」について学んでいきます。次回は10月3日配信予定。

有野晋哉
1972年2月25日生まれ。大阪府出身。テレビやラジオ、CM、雑誌の連載などマルチに活躍。コンビで公式YouTube「よゐこチャンネル」も開設しており、幅広い世代から支持を得ている。自身が50歳を迎えた2022年に、お金にまつわる知識の大切さに目覚め、日々勉強中。

小島孝子
神奈川県生まれ、税理士。ミライコンサル株式会社代表取締役。1999 年早稲田大学社会科学部卒、2019 年青山学院大学会計プロフェッション研究科修了。大学在学中から地元会計事務所に勤務した後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、一般経理職に従事したのち2010 年に小島孝子税理士事務所を設立。税務や経理業務に関する執筆やセミナー講師の傍ら、街歩き、旅好きが高じて日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、「旅する税理士」。著書に、『会話でスッキリ 電帳法とインボイス制度のきほん(令和5年度税制改正大綱対応版)』(税務研究会出版局)、『ちいさな会社とフリーランスの人のための どうする?消費税インボイス』(税務経理協会)、『3年後に必ず差が出る 20代から知っておきたい経理の教科書』(翔泳社)など。

ライター:新井奈央

この記事の感想を教えてください。