はじめに

第3号被保険者はかなり特別な待遇

このように第1号被保険者と呼ばれる自営業者のパート勤務の配偶者や、配偶者がいない方にとって、厚生年金加入はプラスに働きます。政府はこの状況を後押しするために、これまで501人以上の大会社を中心に定められていた厚生年金加入要件である年収106万円を、2022年には従業員101人以上の会社まで広げ、2024年には従業員51人以上の会社にまで広げようとしています。このような、「働く人が等しく厚生年金に加入する」動きは「適用拡大」と呼ばれています。

そして、この適用拡大によって「困った」と言い出したのが、冒頭の会社員・公務員の扶養の配偶者です。

年金の被保険者区分では、第3号被保険者と呼ばれる方たちです。これまで年収130万円までであれば、夫の扶養でいられ、年金も健康保険も保険料を自ら負担せずにいられたのに、今回の適用拡大により、同じように働いていると年収106万円で厚生年金に加入することになり、今までと同じ収入だと保険料の負担が生じるため、「手取り」が減少してしまうのです。

実際には、年収が一定以上増えると手取りは増えていくのですが、現状と同額の収入では手取りが減ってしまうため、自らが厚生年金に入るより、働く時間を減らすなどして収入を控える「働き控え」が発生しているということを「年収の壁」と表現しています。

結果として人手不足に悩む企業が多くなることを懸念し、政府はいくつかの特別措置を設け、この壁を意識せずとも働いてもらえるようにと対策をとっており、それが日々の報道となっているわけです。

当事者にとっては、確かに大問題です。仮に給与10万円で厚生年金に加入したとしましょう。東京の協会けんぽで計算すると、厚生年金保険料が8,052円、健康保険料は介護保険料込みで5,791円、雇用保険料が350円、合計14,193円の負担が発生します。手取りの減少は生活に響きますから、それを嫌ってしまうのは理解できる気もします。

ただ、ここで短絡的に「働き控え」する前に、第3号被保険者の保険料免除の意味を確認しましょう。第3号被保険者は、年金保険料を一切支払う必要がありませんが、国民年金に加入したことになっています。前述したように、国民年金は1年間支払がないと、将来受け取る年金額が約2万円減る仕組みですが、第3号被保険者は保険料の支払が一切なくとも保険料を支払った人と同じ額だけ年金が受け取れます。

これは、申請免除あるいは障害者などの法定免除の方が2分の1しか受け取れないことに比べたら、破格の待遇と言えます。

時々、第3号被保険者の保険料は、配偶者が会社から天引きされて保険料を支払っているのだろう、と思っている方もいます。しかし、会社員の保険料は給与の額で決まるので、扶養の家族の有無、既婚・独身に関わらず保険料は同額です。これは健康保険、介護保険も同様です。あまり議論にもなりませんが、第3号被保険者が健康保険料、介護保険料の支払も免除されているという点も、かなり特異な立場であると考えます。

生活の環境はさまざまなのでなんとも言えませんが、要件を満たす働き方をするのであれば、厚生年金や健康保険、あるいは介護保険の保険料を負担するのは当たり前のことだと思うのですが、ここが「年収の壁」と問題視し、かつしばらくは特別待遇をすることでなんとか働いてもらおうという政府のやり方について、筆者は公平な判断であるとは言いがたいのではないかと思います。

よく「収入がないので専業主婦がiDeCoをすることは意味がないのか」というような質問をいただきますが、社会保険の扶養と異なり、税金の扶養は年間の収入の額で判断されます。妻の年収が150万円までであれば夫は配偶者特別控除が受けられますし、妻自身も年収103万円以上になると所得税が発生します。

従って、社会保険の扶養とは別に課税されるかどうかは決まるので、iDeCoの節税メリットの有無は年収の壁とは異なる視点から判断する必要があります。しかし長期の視点で見れば、「老後資金を準備する」目的なのであれば、掛金に対する節税メリット以外にも目を向けるポイントはあります。

確かに、事情があって今すぐには働けないという方もいるでしょう。でもその場合は「2年後は?」「5年後は?」「10年後は?」と、時間軸を持って考えてみるとよいでしょう。その上で、いま働きに出ることは難しいが、将来に備え資格取得の勉強をするなどといった行動は、自分の将来を変えるとても大きなきっかけになると思います。

なにより、人生には「まさか」がつきものです。配偶者が病気になるかもしれない、1人になるかもしれない、といった「まさか」に備える拠り所になるのは「稼げる力、経済的な自立」ではないかと考えます。

ぜひ、「年収の壁」と簡単に結論付けをするのではなく、ご自身の置かれた環境がどのようなものなのかも踏まえて、人生を見つめて欲しいと思います。ご自身の人生における経済的自立がメインとなれば、iDeCoだろうがNISAだろうが、やってみる価値はあるとの考えに至る方も多いのではないでしょうか?

年収の壁問題についても、目先の損得だけで判断するのではなく、ご自身が「人生をかけて手に入れたいものはなんなのか?」を優先して、今後のための行動を考えていただきたいと思います。

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