はじめに
投資家、起業家が寄付をする理由
──日頃からフローレンスのファンドレイザーとして多くの寄付者と面談などでコミュニケーションを取られていますが、その中には資産家や企業経営者など、お金持ちの方々もいらっしゃいますよね。そんな方々はどうして寄付をするのでしょうか?
寄付者の皆さんにも色々な方がいらっしゃるので、一概にこうだと言えるわけではありませんが、例えば動かせるお金が大きい方として、とある投資家の方は「寄付も投資である」とおっしゃっていました。社会課題の解決にはビジネスを通じて解消する営利のアプローチと、非営利のアプローチが有効な分野があります。投資家としては、世の中の社会課題を理解することがお仕事にも繋がるそうで、寄付で非営利アプローチに関わることで、社会課題についてより深く学ぶことができるのだとおっしゃっていました。「社会課題解決のために営利アプローチが必要ならファンドなどを通じて投資をし、非営利アプローチが有効なら寄付をする。どちらが課題解決のためにスマートなのかという違いでしかない」というお話でした。
また、別の方も似たお話をされていました。その方は起業家で、課題を見つけるとどうやったら本質的にそれを解消できるかを考えるのがお好きなんだそうです。自分がリーダーシップを取って解決できる場合は事業を作ることで解決を目指すが、自分だけでできない場合は、その大きな課題を解決しようとしているリーダーとなる人や団体に寄付をすることで、課題の解消を目指している。課題解決を実行するリーダーは極めて貴重な社会資源と捉え、その活動を寄付でサポートすることが、自分が課題を解消する一つのアプローチだと考えているそうです。
──ビジネス領域で扱えない非営利分野の社会課題の解決を、寄付をすることで実現させようとしているのですね。社会課題に対する理解を深められるというのは、さすが投資家や起業家の視点です。たしかに、寄付というのは環境問題やこども支援、災害支援など、支援者から対価が得られないため、ビジネスでは扱いづらく、非営利分野としての社会課題解決を目指して行なわれることが多いですね。
そうですね、NPOもそういう分野で活動されている団体が多いので、経済界で活躍されている方々が寄付の形でご支援くださることは本当に心強いです。寄付は個人に直接的なリターンはないのですが、「社会が変わる」ことがリターンになるんですよね。そういう意味で投資に近い感覚で寄付を考えていただいているのかなと思います。
意見表明としての寄付、自分のための寄付
──投資家や起業家など、社会課題に対して事業を作り解決することをお仕事にしているスケールの大きな方々の発想という感じです。寄付や投資の形で社会を変えていくことに積極的に参画できるのが醍醐味なのかもしれないですね。
そうですね。社会に対するアプローチ、という意味では、寄付は税金の使い道に対する「小さな反逆」なんだ!と仰る方もいました。
──小さな反逆!?攻めた表現が出てきました。
面白い表現ですよね。その方が言うには、普通に働いて税金を納めたらその税金の使い道は政府や行政にゆだねることになりますが、例えばその一部をふるさと納税による寄付に使うことで、税金の使い道に対する意見表明にもなりうる。「ここにお金を使ってくださいよ!」というメッセージになるんだと仰っていました。
また、これと似たようなイメージかもしれませんが、寄付は「投票」という意味があるよね、というお話をしてくださった方もいました。自分の関心のある分野に向けて寄付をすることで「こういう世界を支持する」という表明になると。金額の大きさに関係なく、100万円寄付する人も100円寄付する人も、大事な「一票」を投じていると考えていると仰っていました。
──意見表明としての寄付という考え方も面白いですね。やはり、寄付をされる方は、社会全体のことを考えている意識の高い方が多いのでしょうか。
そういう方も多いかもしれませんが、もっと個人的な理由を挙げる方もいらっしゃいますよ。
例えば、継続的にフローレンスに寄付をしてくださっている方は、こんな風に寄付する理由をお話してくださいました。
その方は、ピーター・ドラッカーの『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』(2000年 ダイヤモンド社刊)を読んで影響を受けたそうなんですが、そこにはプロフェッショナルの心得として、自分は何によって人に憶えられたいのか、自分の死後どういう形で他の人の記憶に残りたいか、それを考えて人生や仕事の目的を設定することが大切だ、と書いてあるそうなんです。そこから、「人にプラスの影響を与えて生きよう」と思うようになったことが、寄付をする大きなきっかけになったそうです。
また、別の寄付者の方は「寄付は合理的なお金の使い道なんだ」と仰っていました。
その方は、例えば服やアクセサリーなどを購入して自分の物欲を満たすことも大切だが、それと同様に、たまには自分の中にある貢献欲も満たすことが必要だ、と考えているそうです。物欲はわかりやすいので満たそうとする人が多いが、実は人間には「貢献欲」もあって、それを満たすことが幸福感に繋がると。寄付をして、自分は社会の役に立っている、他者に貢献できていると思ったときに、自分は幸福感を得られる上に、寄付された側のつらい状況も少しは取り除くことができる。こんな最高のお金の使い道はないよ、と仰っていました。