はじめに
お金は貯めることが目的ではなく、将来の自分が使うために貯めるものだというと、一見当たり前のことに思えるでしょう。しかし、この当たり前ができている人は、意外と少ないようです。
お金はないよりはあったほうがいいことは間違いありません。人生が終わりに近づいてきた時にカツカツの生活を送らざるをえない状況では、後悔しながら死んでいくことになるかもしれません。もしもの時に備えて、最低限のお金は貯めておく必要はあります。
しかし、お金を必要以上に貯めこむ必要はありません。「富の最大化」ではなく、「幸福の最大化」を目指す、資産運用の出口戦略を一緒に考えていきます。
資産をできるだけ使い切って最期を迎えたほうが、人生の幸福感は高い
全世界でベストセラーになっている『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ビル・パーキンス著)は、タイトルどおり「資産ゼロで死ぬ」をテーマにした本であり、資産形成期に築いた資産を上手に使い切っていくことの重要性を説いています。
「資産を残して亡くなったら、その資産を使うことで得られるはずだった経験を得られなかったことになる。人生で一番大切なのは、思い出を作ることだ」と同書は語ります。
仮にあなたが1000万円の資産を残して亡くなったとしたら、1000万円分の経験ができず、その分の思い出が作れなかったということです。この1000万円を仮に時給1500円で週40時間働いて稼ぐとすれば、ざっと3年4か月も働かなければなりません。しかし、そうして働いて貯めた1000万円を使わずに死んでしまったら、タダ働きしたと同じことだとも言っています。
そう指摘されれば、資産を計画的に取り崩し、「資産ゼロで死ぬ」を実践したほうがよいと多くの人が思うのではないでしょうか。早いうちから自分のためにお金を使ってさまざまな経験をし、たくさんの思い出を残したほうが、豊かな人生を送れるでしょう。
よく言われることですが、あの世にお金は持ってはいけません。お金を貯めこんだまま最期を迎えるよりも、資産をできるだけ使い切って最期を迎えたほうが、人生の幸福感は高いのです。豊かな人生を送るためには、「資産ゼロで死ぬ」意識でお金を使っていくことが大事であると念頭に置きながら、この後の内容を読んでいただければと思います。
でも、生きているうちに資産がゼロに近づくのは不安
「資産ゼロで死ぬ」を実践しようと思っても、実際のところ資産を取り崩していって、最期にゼロにするのはなかなか難しいものがあります。なぜなら、寿命をいつ迎えるかは誰にもわからないからです。
寿命を予測して、そこに向けてお金を取り崩していったら、「思ったより長生きしてしまった」ということもあるかもしれません。反対に、資産を取り崩し始めて早々に病に倒れ、そのまま亡くなってしまうこともあるかもしれません。
「資産ゼロで死ぬ」を実践するのに躊躇してしまう一番の要因は、資産が少しずつゼロに近づいていくのを見るのが不安であることです。
たとえば、70歳時点で貯蓄が2000万円あるとして、月10万円、年120万円ずつ取り崩していくとします。貯蓄が潤沢なはじめのうちはまだいいでしょう。しかし、常に年120万円ずつ定額で貯蓄を取り崩すと、80歳を迎えるころには貯蓄の残りが800万円と、当初の半分以下になってしまいます。それでも年120万円ずつ取り崩しを続けると、86歳8か月の時点で貯蓄が底をついてしまいます。
実際には、貯蓄が底をつく前に取り崩しのペースを緩めるなど、何らかの対策を講じるかもしれませんが、「貯蓄がなくなってしまうかも」と不安に駆られるのも無理はありません。
寿命があらかじめわかっていれば、計画的に資産をゼロにすることができますが、そうでない以上、「資産ゼロで死ぬ」を達成するのはなかなか難しいのです。
「終わりよければすべてよし」という言葉があるとおり、人生の最後が幸せであれば「良い人生だった」と思える可能性が高いでしょう。「資産ゼロで死ぬ」を目指していたら、途中でお金が尽きて人生の最後は貧しく不幸せであれば、「悔いが残る人生だった」となるかもしれません。