はじめに

厚生年金財源の役割は非常に大きい

では、SNSで噂されているように、事業主負担をこれまでねんきん定期便に記載しなかったのはわざと年金給付額を多く見せるためなのでしょうか?

先ほどからお伝えしているように、年金給付額の計算式に事業主が負担した保険料は関係がないので、あえてねんきん定期便に記載したところで、年金給付額が増えるわけでもありません。むしろ事業主負担分は、以下の二つの目的のための財源であると考えると分かりやすいのではないでしょうか?

一つ目が、長寿の方の年金給付です。さきほどの例であれば、会社員本人が負担した保険料が回収できるのは75歳でした。65歳から年金を受け取ると約10年で元が取れるという見方もできますが、一方で10年で払った分の「貯金」が底をつくという意味にもなります。

平均寿命は男性が81.09年、女性が87.14年といっても、それ以上長生きする方も多くいらっしゃるでしょう。すると個人の「保険料という貯金」は枯渇しますから、どこからか財源を補充しなければなりません。それが事業主が負担した保険料の分と考えることもできるのではないでしょうか?

また平均寿命以上の長生き以外にも遺族年金や障害年金の給付もあります。実際年金給付の財源の7割が被保険者と事業主が負担する保険料、2割が税金、1割が年金積立金とされており、それだけ多くの資金をあてて年金制度を支えていることが分かります。

もうひとつは基礎年金部分の負担金です。会社員の年金は2階建て、国民年金(基礎年金)と厚生年金に加入しています。従って、毎月天引きされている厚生年金保険料は一部基礎年金の分として国民年金に拠出されています。

令和6年度の国民年金保険料は月16,980円です。つまり、会社員と事業主が負担する18.3%の保険料率で負担する厚生年金保険料のうち16,980円は国民年金に拠出されるということです。

すると、不思議なことに気づきます。前段にお伝えした厚生年金の標準報酬月額の1等級は88,000円で、本人が負担する保険料は8,052円でした。事業主分も合わせて16,104円ですから、これでは国民年金に拠出する保険料として1ヶ月あたり876円不足します。

仮に月の収入が88,000円でも従業員50人以下の会社にお勤めの場合は、原則厚生年金に加入できませんから配偶者の扶養となっていない限りは自分自身で16,980円の国民年金保険料を負担しなければなりません。

しかし、厚生年金に加入できると負担する保険料は約半分の8,052円で済み、かつ将来受け取れる年金は国民年金と厚生年金の2階建てになるのです。また事業主や会社員が負担する厚生年金保険料から第3号被保険者の国民年金保険料も支払われているので、厚生年金財源の役割は非常に大きいものといえます。

自己防衛としてすべきこと

このように、年金制度は個人的な視点で損得を語れるものでは決してありません。SNSで年金に関する批判が多くあることは承知していますが、事業主負担がねんきん定期便に記載されても、その分自分が受給できる年金額に直接反映されるわけではないこと、一方で事業主は従業員ひとりあたりについて相当大きな金額を負担しているという認識を深めることの方が重要なのではないかと思います。

また今私たちが自己防衛としてするべきことは、厚生年金に加入している方であれば、報酬を上げ将来受け取る年金額が少しでも多くなるよう努力すること、そして収入の一部はiDeCoやNISAで資産形成をすることに尽きるのではないでしょうか。

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