はじめに

量的緩和によってモノの値段は上がる

次にモノの値段について考えたいと思います。

今、株価はスルスルと上がっています。ビットコインとかもう恐ろしい勢いで上がっています。ビットコインの話はまた後で話す機会があると思うんですけれども、まずそもそもモノの値段ってなんでしょうか。

企業の価値は去年と今日で変わっていないのに、やっていることは変わっていないのに、なんで株価が変わるのでしょう。不動産は、去年も今年も同じ土地なのになんで値段が違うんでしょう。

100ccずつ水が入っているコップを3つイメージしてみてください。この一つひとつのコップに入っている水の量をもってコップの値段とする、と定義します。コップは同じコップです。値段は中に入っている水の量で1cc1円とする、というルールを作りました。すると上の図は100ccずつ入っているので全部100円になります。下の図は50cc、100cc、200cc入ってるので、50円、100円、200円になります。

一つ気をつけて欲しいのは、上と下の全部で300ccと350ccになります。このように、コップの値段、コップの価値は変わっていなくても、水が入っているか入っていないかで値段が変わってしまう。そこに「マネー」というお金が向かっていくかどうかで値段が変わってしまう。去年と今年で企業も不動産も同じものであっても値段が変わってしまう。かつ、上と下で水の量が増えています。これがいわゆる量的緩和、流動性の供給です。

量的緩和が行われれば必ず、モノの値段は上がる。不動産とか株式の値段は上がります。リーマンショック以降、あるいはアベノミクス、クロダノミクス以降、株価が上がってきた最大の理由は、量的緩和が行われたからです。いろいろな違う説明をする人もいますけれども、私は量的緩和が行われたから、その現象として、企業の価値は変わらなくても株価はこのような理由で上がったと思っています。

このように考えるといろんなことがわかってきます。金融緩和がなくなると株価が下がってしまう。金融緩和が続けば上がり続ける、ということが考えられます。

ちょうど総選挙なので一つは分析として言いますと、今回の選挙の枠組みができてから日本の株価は上がり続けました。最大の理由は何かというと、私が思うに、日銀総裁がリフレ派以外にはならないことが明らかになったからです。

自由党、希望の党というものができて、民主党が分裂する中でどういう枠組みであっても日銀総裁というのは国会同意人事ですから、自民党が出すリフレ派、緩和派の総裁人事に対してかつての民主党があればそこで反対が出てなくなるかもしれない。でも今のように分散すると、左派右派とか、希望の党のような枠組みのところへは日銀総裁人事のようなものには、反対するとかはしないと思われる。そのような連想の中から、この選挙の枠組みであれば日本の金融緩和の流れは変わらないだろう、と。選挙、そのあとの民主党とか希望の党の流れが明らかになった時点で、少なくともマーケット的には金融緩和が続くんだから株価は安全だね、という連想がおそらく起きたと思います。

そのくらいこの金融、流動性の供給が続くか続かないかということは、モノの値段の行方を見るうえでは大変重要だと私は思います。リーマンショックの後も同じです。量的緩和をするというから株価はすぐに上がり始めました。

今、世界には金融資産は3京円、3万兆円くらいあるのではないか、と思われるのですが、このようにお金はアメーバのように地球上を行ったり来たりすることになります。先ほどのコップの例でいうと、そのアメーバのように移るお金が行くところのモノの値段が上がる。そこがどこだかわかればそこにコップを置いておく。すなわちそこに投資をしておけば儲かる。儲かるという現象が起きる。自分の持っているコップの中の水の量が増えるので、お金が増える、という現象が起きることになります。

そうすると、どういうふうにお金が流れていくのかを知ることは、投資を考えて行くうえで大変重要なテーマになってきます。ただ、その際に一つ気をつけることがあって、行ったお金がすぐに戻れるのか、行ったらなかなか戻れないのかで行く先が大きく変わってきます。

例えば、為替、ドル円とかですと、すぐに場所を変えられます。どんなにいっぱいドルを買っても明日は逆のポジションに変えられます。極端な言い方をすれば1分後には全部変えられます。そう考えると、5年後10年後のことはほとんど関係ありません。

今、国会議員をされている藤巻健史さんが、日本は財政破綻するので円安になるんだ、1ドル300円まで、500円まで、1000円まで行くんだとおっしゃってましたけれども、そういうことはまったくありません。なぜなら、為替は1秒後でもポジション変えられるからです。例えば今ここで、20年後まで反対売買ができないという条件で、ドルを買いますか、ドル買い円売りをしますか、ドル売り円買いをしますか、というご質問を皆さんにします。

20年間ポジションは変えられない。そしたら多くの方はさすがに20年したらドルが強くなるのではないか、今の日本の少子高齢化とかを考えて、そう思われるかもしれない。ところが、明日までのポジションといったら、半々くらいにわかれると思います。

そのようにお金の行き先というものは、行った後どのくらいの速さで戻れるかによって答えが全然変わってきます。新興国はだいたい、外国為替コントロールの法律とかで、一旦投資をすると10年間とかお金を引き戻すことができないようなルールになっている国がほとんどです。とすると、そういう国に対しては10年越しでリターンが出る、10年経っても儲かる、10年置いておいても儲かる、という考えがなければそこにお金は行かない。そういうふうに、アメーバのようなお金の行き先を考えることは大切なのですが、どういう時間の枠組みなのかで答えが違ってくるので、そういうことも理解することが大切だと思います。

ここまでが全体の金融、投資というものの本質とか、皆さんが経済の主体であるとか、あるいはモノの値段、お金の流れ、流れるお金が増えると値段が上がる、お金が動くところの値段が上がる、だからその際にもどういう時間の枠組みで考えるかが重要であるというお話をしました。

皆が知っている情報を知ること

ここからもう少し具体的なところへ入って行きます。投資信託を中心にポートフォリオを構築される方が多いのではないか、と存じ上げますけれども、株式の個別銘柄を買うという運用もあります。あるいは、投資信託を中心にするのであっても、株式のことを考えることは大変有用です。

例えば、上場企業の株式を10銘柄選んでください、と聞かれて、すぐに10銘柄を選べる人はおそらくほとんどいないでしょう。いろいろ悩んでマネー誌を読んだり、証券会社の人に聞いてみたり、人に聞いてみたりと、いろいろ悩んでしまう。

ところが皆さんに年頃の子供が10人いて、10人を世界中の好きな上場企業に就職させることができるとしたらどうでしょうか。マネー誌を読むでしょうか。人に聞くでしょうか。そんなことはしないですよね。そういうふうにした場合、IT銘柄に10人就職させるでしょうか。しないですね。JRに一人入れておこうかとか、アップルとかアメリカに2人くらい就職させようとか、中国にも一人くらい就職させようとか、いろいろ考えるはずです。

一人で分散を考えるし、自分の意思で考える。自分で主体性を持って決めることができる。投資は株だけでは終わりません。買ったらいつか売らなければいけない。買うことと売ることは半々です。ということは、人に完全に任せっきりで買った物は売れないんです。自分で考えなければいけない。

売り時というか、銘柄、投資先を入れ替えることも自分で自分の判断で自分の情報で決めることができる。そういうのが大変楽しいし、おそらくいい結果に繋がると思います。

大変面白いデータがあるのですが、リクルートという会社が過去30年間くらい、毎年、全国大学卒業生就職先人気企業ランキングを出していますよね。30年前から毎年上位10社、非上場企業の場合にはそれを繰り上げて、上場企業で上位10社をそのときの値段で株を買ったとすると、今そのポートフォリオのパフォーマンスを見るとTOPIXを大幅に下回ります。

なぜなら、一人の若者が自分一人の人生でまだよく周りも世間もわからない中で、熱くなり、流行りを追いかけて、自分一人の人生で思いが強くなって、高値掴みしてしまっています。先ほど言ったように自分に子供が10人いたとして、10人の行き先を考えると、本人じゃないのでもっと余裕を持って見ることができるし、10人いるので一点買いはしなくなる。そう考えることが大切だと思います。

これの違ったバージョンとしては、自分が行けなかった、自分ができなかった人生を自分のお金にやってもらう、やらせてみる、といった考え方もできようかと思います。

投資をするときには、例えばポートフォリオを組むようなやり方であってもやっぱり情報というものは気になります。ただ情報には、上流と下流があります。

もしマネー誌とか証券会社のセールスのいうことを聞いて買って儲かるんだったら世話ないです。昔、私は外資系証券会社でディーラーをやっていました。私が何かを買ったりするとバーっといろいろな通信社からすぐ電話がかかってきて、マーケットが動いているんですけど、もしかして松本さん何かやってませんか、と。

30秒後くらいにピカピカピカと機関投資家しか使えない高い端末に速報が流れる。それから30分くらいすると高い情報量を払っている個人だけが見られる情報端末にニュースが流れる。それから半日してみんなが見られるところにニュースが流れていく。そういうふうに情報は、使い回されていきます。それに合わせてポジションもどんどん売られていきます。

なので、ある一つの情報を探しにいくとか、それを信じることは危険です。そうではなくて、全体に何が起きているかを知ることが大切です。ある情報を聞いたときに、それが本当に誰も知らないことはまずない。1万回に1回もないと思った方がいいです。何を皆が知っているのかを知ることが大切です。

マネー誌を読む、日経新聞とかいろいろな新聞を読むというのは、そこに書いてある情報で何か投資をするために読むのではなくて、皆が知ってることを一応知っておくために読むんです。そうすると何か事件が起きたときに、それは皆が知っていたことだったっけとか、それって皆が思っていたことと違う、とかがわかる。それで株価が動いたり、マーケットが動いたりしますので、そういう皆が知ってることを知ることが大切だと思います。

マーケットは自分よりも先に動く

そろそろ投資の話に行きますけれども、なぜマーケットは自分の思いと逆の方向に行くのかと思われた方はいらっしゃいますか?

僕はよくそういうことを思うんですけれども、なんでマーケットは自分の思いとは逆の方向に行くのだろう、と。買ったら下がる。下がったら、売ったらなんか上がり始める。なんてことがよくありますね。

これは簡単なことなんです。マーケットというのは、あらゆる人が参加しています。国もインサイダーも参加しています。マーケットには、どれだけ多くの参加者がいて、どれだけいろいろな情報を他の人が持っているのか、という見積りが皆さん低すぎるんです。

見積りが低すぎるので、うっかりマーケットが動いたときとか何かニュースを読んだときに、これは上がるんじゃないか。自分は他の人よりもそのことがわかっているんじゃないかと思ってしまうんです。ところが実際には、自分よりもはるかに多くの人が、自分よりもはるかに多くのことを知っていて、自分よりもはるかに早くそれを考えて行動しています。

ほぼ間違いなく自分よりも先にマーケットは動いています。自分はいつも遅く来た人です。だから、マーケットが自分の思いと逆に行くんじゃなくて、自分はいつもマーケットよりも遅れている、と知ることが、すごい大切だと思います。

次に今回、またしても行動心理学の研究をしたアメリカの学者さんがノーベル経済学賞をとりました。この行動心理学、プロスペクト理論というものは、元々は十数年前にダニエル・カーネマンという先生、その他の学者さんが共同で研究したプロスペクト理論がノーベル経済学賞をとったのが一番最近なんですけれども、よくできた理論なので、ここで少しだけ皆さんと一緒にクイズを4題だけやりたいと思いますので、お付き合いください。

よろしいですか、今すぐ全員一人ずつ1000万もらえるのと、これから箱を回して、箱の中に白玉が9個、赤玉が1個、でその玉を一回だけ一個引けます。引いて赤玉だったら1億円、白玉だったら0円、というくじを引くのとどっちがいいですか。今すぐ1000万円欲しいという方、挙手をお願いします。くじを引こうじゃないかという方。97対3くらいですかね。だいたい1000万円もらおうという方が多いですね。

次に今すぐ10万円もらえるのと、同じようなくじ引きをして赤玉が出れば100万円、白玉だったら0円どちらがいいですか。10万円欲しいという方。くじを引こうという方。ほら45:55くらいになりますね。

今の2題はどちらも期待値は一緒ですよね。ところが、人はリスクが大きい、金額が大きいときにはリスクを嫌がるんです。だから、金額が大きいと金利がなくても預金をするようになります。一方、金額が小さくなるとリスクを好むようになってきます。100円ともなると、もっとリスクを好みます。だから宝くじを買うんです。億万長者になる近道、なんていうテレビCMやってますね。あれ金商法的にはありえないですよね、本当によくない。あれは、社会貢献とか寄付なんです。そう言ってくれればいいんですが、ああいう宣伝の仕方はよくないですよね。宝くじじゃなくても金額が小さいとリスクを取ってしまうんです。で、大きい金額だと逆にちゃんとした行動を取らないで、金利のない預金をしてしまう。それは経済的には間違ってるんです。

マンションを買いました。数年後マンションの価格が上がりました。そのときマンションの価格が上下に動いているのと、安定して上がったところの値段を維持しているのと、どちらの気分がいいですか。上下に変動している方が気分がいいという人、3名ですね。安定している方が気分がいいという人。もう本当、1:99くらいですね。

次にほぼ同じ問題です。

マンションを買いました、同じマンションです。数年後マンションの価格が下がりました。下がったところで、マンションの価格が上下に動いてるのと、その値段で安定しているのとどちらが気持ちいいですか。

上下に動いている方が気持ちいいという人。安定している方が気持ちがいいという人。98:2くらいですね。さっきは1:99。今度は98:2。買ったものの値段が下がるといつまでも損切りをしない。でも、これは明らかに非合理的ですよね。どちらかが正しいと言ってるのではなくて、人は儲かっている領域ではリスクを嫌いすぎて、損している領域ではリスクを好みすぎるというのが、行動経済学、行動心理学です。

やっぱりマーケットは常に買う人がいれば売る人がいますから、マーケットの反対側にはあなたと違うことをやっている人がいる。皆さんがもし、経済非合理的なことをすれば、反対側には経済合理的なことをやっている人がいる。そうすると1回では勝てるかもしれませんけど、長い目では必ず負けていきます。経済非合理的なことをなるべくやらないことが大切なんです。

そのためには理論を知っておくことが大切です。やっぱり金融、投資とかの勉強をすることはとても大切なんです。少額だからといってリスクを取りすぎないとか、高額でもリスクを排除しすぎない。遅すぎる損切りとか早すぎる利食いをしないとか、そういうことを考えるのが必要で、時間がないので割愛しますけれども、もしご興味があればいろいろなセミナーとか本とかありますし、マネックス証券でもいろいろなコンテンツとかセミナーをしておりますし、いろいろな形で勉強される機会はあるのではないか、と思います。

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