はじめに
投資信託の積み立て投資が非課税でできる「つみたてNISA」がスタートしました。2017年には税制優遇を受けながら老後のために投資信託を積み立てるiDeCoの対象者も拡大し、投資信託を活用する機会が増えています。
この記事では、楽天証券経済研究所 ファンドアナリストの篠田尚子さんに最近の投資信託のトレンドや2018年注目の投資信託、さらには上手な活用法まで、話を伺いました。
特定のブームは影をひそめ、投資信託は健全化した
——投資信託(投信、ファンド)にとって、2017年はどんな年だったでしょうか?
篠田(以下、同様): 世界的な株高で市場環境がよかったことに加え、iDeCo加入対象の大幅拡大や、2018年にスタートしたつみたてNISAなどで、投資信託が改めて注目された1年だったと思います。
——どのような投資信託が売れたのでしょうか?
数年前までは金融機関も相場のブームに乗った新しい投資信託を売ろうとする傾向があり、売れ筋が毎月分配型に偏重したり、特定のテーマや投資対象に集中したりする傾向がありました。しかし最近は、既存ファンドも含めたラインナップの充実に注力し、相場環境や投資家の要望に沿った営業をする傾向が強くなってきたように感じます。
投資家の人気やニーズも分散しており、実績のある既存ファンドを改めて評価したり、コストをシビアに比較したり、冷静に投資対象を選別する姿勢が感じられ、レベルアップしていますね。
投資信託は本来、投資家が投資したい対象を選んで、個人では難しい分散投資を少額から手軽に実現するためのものです。さまざまなタイプの投信が売れている現在の状況は健全な状態だと思います。
—— しいて17年の人気投信を挙げるとすれば、なんでしょうか?
インド株投信やアメリカの中小型株やバイオ関連、ロボティクスなどの成長分野に投資する投信が人気だったようです。インドの株式市場は活況が続いており、新興国の中でもポジティブ要因を見つけやすい状況にある一方で、個人投資家が直接投資するのは難しいマーケットです。アメリカの成長分野も個別株をいくつも買うとなると多額の資金が必要なので、こうした対象への投資に投信を活用するのはうまい方法ですね。
独立系投信会社、レオスキャピタルワークスの『ひふみ投信』の人気も続いています。銘柄発掘力にすぐれ運用成績が良いことと、テレビなどで紹介されて知名度が上昇したことが背景にあるのでしょう。10年ほど前にも、同じ独立系投信のさわかみ投信が、長期投資の姿勢が共感を呼んで人気を博したことがありましたが、同じような現象が起こっていますね。
—— 新しい投信に何らかの傾向はみられますか?
投資信託は、機械的に指数に連動するインデックス投信と、ファンドマネージャーが投資判断を行うアクティブ投信に分けられます。近年はアクティブ投信で、銘柄抽出や選定にビッグデータ分析やAI(人工知能)を活用されるものが登場してきています。まだ運用期間が短く、相場の大きな変動も経験していないため現段階で評価できませんが、今後に注目したい商品です。
——個人投資家は投資信託をどのように活用していますか?
iDeCoやNISAといった税制優遇のある制度の認知度が上がったことで、投資家のすそ野が広がっています。こうした制度を入り口に、投資デビューする人が増えているようです。
一方で、中上級者は個別株投資と投資信託を上手に併用していますね。たとえば、日本株は自分で個別株を選んで投資し、海外資産や個人投資家が直接アプローチしにくい対象では投資信託を活用している例が多いようです。さきほどお話したインド株やバイオ、ロボティクスなどの特定セクターに投資する投信は、主にこうした層が買っていると考えられます。
iDeCoとNISAが進めた「リスクコントロール型」の台頭と「低コスト化」
——iDeCoの対象拡大やNISAは、投信業界にどんな影響をもたらしましたか。
NISAは一度換金するとその非課税枠が使えないので、長く投資できる商品を選ぶ必要があります。このため、つみたての方ではない一般NISAがスタートした2014年前後には、「リスクコントロール型」といわれるタイプのバランスファンドが多く新規設定されました。
これは相場が急落すると株式を減らして債券や現金を増やすなど、市場動向に応じて投資資産の組入比率を機動的に変更したり、下げ相場でも利益を目指す「ロングショート戦略」を活用したりしています。具体的な商品としては『投資のソムリエ』『ピクテ・マルチアセット・アロケーション・ファンド』などが挙げられます。
本来新規設定の投信は実績がわからないので投資しづらいのですが、これらの投信も設定から5年近く経過し、比較検討しやすくなりました。改めてこうした商品に注目するのもいいかもしれません。
また、3-4年前からインデックス投信の信託報酬を下げたり、販売手数料をゼロにしたりと、低コスト化が進んでいましたが、2017年に金融庁がつみたてNISAの対象商品の条件として低コストを明確化したことで価格競争の流れが加速しました。これで国内株式や債券を対象とするものはもちろん、海外に投資するインデックス投信でも信託報酬が0.1%台の商品が複数登場しました。iDeCoも昔からある投信の中にはコストが高いものがあり、こうした商品が淘汰される傾向もみられます。
——低コスト化の流れは今後も続くでしょうか?
すでに手数料の引き下げは限界に達しており、この流れはいったん収束するのではないでしょうか。確かにコストは安いほうが有利ではありますが、それで運用会社の経営が傾いては意味がありません。適切な運用を続けるには一定のコストは必要で、投資家もコスト以外の面を評価する必要があると感じています。たとえば、先ほどお話したインド株投信のような商品は、投資対象へのアプローチも難しく、コストがかかって当然の商品です。