はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。
55歳の自営業者です。同い年の公務員の妻と共働きですが、現在大学3年生の次男が卒業する頃に、妻は退職の予定です。現在の資産は、約3200万円ほどありますが、自分の仕事も先細り気味で若干将来が不安です。
現在のキャピタルゲイン狙いの資産構成から、インカムゲイン狙いの資産構成へ少しずつ移していきたいと思うのですが、どのような方法が望ましいのでしょうか。NISAの活用方法も含めて教えていただけるとありがたいです。
現在の資産内訳は、現預金が約3分の1、現物株が約1割、残りが投資信託です。投資信託の内訳は、国内株式45%、外国株式40%、外国債券15%です。家は持ち家ですがローンは返済済みです。よろしくお願いします。
(50代後半 男性 既婚・子供2人)
野瀬 :ご相談ありがとうございます。
まずは現状把握を
最近50代の方から資産運用についてアドバイスを求められることが多いです。30代、40代とは違い、「老後」というものが現実味を帯びてきたのか、それともある程度資産に余裕が出てきたので運用を考えるようになったのか、理由はさまざまですが、皆さん真剣に「お金の置き場所」を探しておられてるようです。
こういった相談を受けたときに、まず私がご提案するのが「現状把握」です。なぜかというと、40代の人と違い50代の人は実はそれほど問題がない、言い換えると資金的に余裕がある人が多いからです。
貯金はある程度あり、家も持っており、厚生年金もしっかりもらえるうえに、この年齢になると親世代の遺産を受け取っている方も多いので、実はリスクのある投資をする必要がない人が多いのです。
しかし逆にお金を持っているので、不必要な高リスク投資をすすめられるのもまたこの世代です。ですから、しっかり現状把握をして、自分の目指すべき目標(老後資金を確保したいのか、それとも劇的に資産を増やしたいのか)を決め、自分はリスクをとるべきなのか、とるべきではないのかをしっかり考えましょう。
質問者の場合はどうでしょうか? 次男が大学3年生とお伺いしておりますし、家もローンが完済してある持ち家ですので、これから先の大きな出費というものはおそらく老後資金だけだと思われます。そして、現時点で3000万円以上の資産をお持ちなので、老後資金としては最低減のレベルはクリアしていると思います。
問題は奥様と異なり、質問者様が自営業という点です。
法人化しており厚生年金に加入しておられるのであれば、3000万円の資産もありますし老後は乗り切れますが、そうではなくて国民年金だけだと考えると正直少し心許ない数字になります。結論として「老後資金に少しの余裕を持たせる投資が必要」ということになります。
噛み砕いていうと、それほど大きなリスクをとる必要はありませんが、ある程度の資産運用は必要だということになります。
今、何に投資するべきか
以前、東京で会計や税務のセミナーを行ったのですが、セミナー終了後に投資家の方々と話をしていたところ、皆さまが一様に言っていたのが、「今はなかなか投資先がない」という点でした。
株も不動産もだいぶ上がってしまったので、そこから出た運用益を投資する先がないということです。そういう状態なので、FX投資をしているという方が多かったように思います。
ただ個人的には、外貨への直接投資は初心者にはリスクが高いと思っていますので、こちらへの投資は考えなくてよいでしょう。海外投資というものは、今後ますます重要性は増しますが、投資の目的が老後資金である場合はリスクをとりにくいので、投資信託中心でよいでしょう。
となると消去法にはなりますが、現在のポートフォリオで特に大きな問題はないと思います。インカムゲインを狙うとのことですので、同じようなポートフォリオのまま分配型のものに切り替えるとよいでしょう。あとは投資信託の中身です。
現状致命的な問題はありませんが、あえてコメントするならばもう少しだけ債券を増やしてもいいかもしれませんね。インカムゲインを狙いたいというのは、老後資金という目的から間違っていないと思います。
そのため本来であれば不動産投資も狙いたいところですが、どう考えても今の不動産価格は買うタイミングではないと思いますので、こちらは、あと4、5年はじっくり待ったほうがよいでしょう。ただ今のご自宅の場所や間取りによっては、お子様が全員独立されてすっかり広くなってしまった今の持ち家を貸し出し、夫婦2人で住むこじんまりしたマンションに引越すというのもありだと思います。
受取家賃と支払い家賃の差額分のインカムゲインが発生するからです。本気でインカムゲインを狙うならてっとり早い方法です。
NISAを使った投資における注意点
最後に一点、NISAを活用したいとおっしゃっておられましたので注意点です。
今の質問者様の資産規模を考えるとNISAを活用するのは悪くないと思います。ただインカムゲイン狙いとお伺いしておりますので、投資効率を少しでも上げるために、具体的にはインカムゲインも非課税にするために、配当の受け取り方法を「株式数比例配分方式」にしておく必要があります。
こうすることで、配当にかかる税金も売却益と同様にゼロにすることができます。ネット証券であれば配当の受け取り方法の変更はそれほど難しくありませんので、ぜひご確認くださいませ。