はじめに
生活の中に息づく、贈与・返礼の精神
──普段意識しないですが、「あげる・もらう/貸す・借りる」という行為は循環しているんですね。
そうなんです。「カウチサーフィン」というサイトがあるんですが、このシステムにはその循環がよく表れていると思います。
これは、簡単に言うと余っているベッドの貸し借りのシステムで、ある地域の誰かの家に無料で泊まらせてもらう代わりに、自分も無料で誰かを泊めてあげることを受け入れるというもの。
どちらか一方だけでもいいのですが、貸す人がいなければはじまらないので、この仕組みが貸し借りの循環で成り立っていることがよくわかる。
日本では有名じゃないんですけど、今、これが世界中に広がっていて、海外を旅行する欧米の若者なんか使いまくってるんですよ。
本を書いていくうちに実感したんですけど、「カウチサーフィン」に限らず、贈与・返礼の精神って普段の我々の生活の中に確実に生きているんです。
手紙やメールのやり取りが続くのも贈与とお返しみたいなものだし、最近なんかだと、ツイッターでもよくフォロー返しとかありますよね。
フォローしてもらったから、返したほうがいいかな、みたいに、ちょっとモヤモヤした気持ちになりますよね。お返しお返しとあまり言いたくはないし、自分も本当はそれほどこだわってはいません。でも回していくためには、やはりある程度は必要だし、その気持ちは我々のなかにあります。
自分の利益が最優先の資本主義のお金のやりとりの中で、贈与・返礼の精神ってずいぶん消えたはずなんですけど、それでも我々の中に根強く残っているのは面白いですよね。
──鶴見さんが実践されている生活の中で「循環」を実感しますか。
はい。「恩送り」みたいなことを提唱する人もいますけど、こういう生活をしているとあながち荒唐無稽な話ではなくて、何か自分が欲しいと思ったらまず自分が何かあげてみると相手も他の誰かにあげたりとか、そういうことから動き出す感じが、すごいするんですよ。
たとえば、毎月第2日曜に国立の路上で「くにたち0円ショップ」というアクションをやっています。路上に仲間と家の不用品を持ち寄ってそこに並べて、道ゆく人に持って行ってもらうというものなのですが、もともと不用品をもらってもらうはずのこのアクションで一番ものをもらっているのは、長い目で見れば、いつも参加しているメンバーだったりするんですよね。
今年で5年目に突入して、常連の人も増えてきて、今では十数人ぐらいの規模になりました。
──「循環」を活性化していくことがおカネに依存しない生活のポイントであり、面白さでもあるんですね。
やっぱり面白くなければこれだけ続いていなかったでしょうね。
ものが捌けるっていうのはそれだけで面白いんですけど、ときどきあっと驚くような縁もあるんです。
以前、「うどん」って書いてある提灯を出したことがあるんです。ちょっとしたはずみでうちにあったんですけど、そんなの絶対誰もいらないって思うじゃないですか。ところが、娘さんが提灯マニアだっていうお父さんが来て、すっごい喜んで持って帰ってくれて。
0円ショップでは不用品を出すこともできるのですが、そうやってものを貰った人が、今度はものを出しに来てくれたりします。そうやって循環が活発になっていくところが楽しいですね。本など、内輪でぐるぐる回っているものもあります。
「0円ショップ」を続けてみて、単にガツガツもらいたいとか、安上がりにしたいんじゃなくて、こういう循環のあるものをつくって行きたかったんだということが改めてわかりました。ガツガツもらうやり方って、結局は長続きしないんです。無料のサービス品をもらったとしても、それはそこで終わってしまうので、ひとりでに動き出すようなことがないんですよ。
貸し借りからできる、人との関わり
──「循環」を活性化していくことがお金に依存しない生活のポイントであり、面白さでもあるんですね。
そうですね。
お返しも、ものに限らず、たとえば、足を怪我して歩けなくなった時に色々助けてもらったり、髪を切ってくれたりだとか、いろんな人からいろんな形で返ってくるんです。ちょっとしたことだったりするんですけど、そういうことが意外と豊かさにつながっている。
自分が何かをしてあげた代わりに得意なことで返してもらったり助けてもらったりすることは、もはや、お金を稼いだこととほとんど変わらないと思うんですよ。
野菜づくりをしていても似たようなことを考えます。これまで、食べていくための仕事というのはイコールお金を稼ぐことだと思っていたけど、食べものをつくるのは仕事以外の何物でもない。
家事はもちろん、生きていくためにやる衣食住に関わることを自力でやることは、お金にはならないけど、「仕事をしている」ということになるんだということにも気づきました。
定職に就いていないと「仕事してないから」とか「最近仕事全然ないんだよ」って謙遜したり絶望しちゃう人も多いと思うんですけど、でも、お金を稼いでなくてもなんらかの仕事をしているはずなんです。