はじめに
お金を稼いでなくても何かの仕事になる
──専業主婦やリタイヤ後の方など、定職に就いていない・お金をたくさん稼いでいないことで自信を持てずにいる方は多いですが、生きていれば皆、何らかの仕事をしているという考え方は救いになります。
今の社会では、仕事ができるできないといった能力ばかりが注目されて、お金を稼げるほどではない特技や、お金を稼ぐことには結びつきにくい能力が発揮しにくいし、評価されづらい。
たとえば料理だったり音楽だったりプロになるまではいかないけど得意なことってありますよね。人の相手や世話をすることだっていいんです。そうした能力を使って、今自分ができる形で貸しをつくっておけば、自分が困った時、あるいは将来体が動かなくなった時にも、もしかしたら何かしてもらえるかもしれない。
社会や地域の協力的なつながりのことをソーシャル・キャピタルと呼ぶこともあります。すべてではないとしても、ある程度のことを、いわゆる資本ではなくソーシャル・キャピタルのほうを大事にすることで解決しようとしているとも言えますね。
──老後の備えは読者とってもっとも大きな関心ごとのひとつ。貯金も大事ですが、お金ではないかたちの「貸し」をつくっていくことも大事だということがわかりました。最後に、貸し借りのいい循環を続けていくコツに教えてください。
自分があげてばっかりになってくるとやりきれなくなってくるので、ある人があげてばっかりになってないかどうか、逆にもらってばっかりになってないか、気を配ったりしてあげるといいんじゃないですか。
あげてばっかりの人がいたらお返しをするように気をつけるとか。もちろん何も返せないけれども支援が必要な場合もたくさんあるので、その時はあげていればいいと思います。
ただ海外援助とか支援とかについても言われることですけど、貰い手が固定化するとあまり理想的とは言えない。特に日常的な場面では、あげる側・もらう側をうまく循環させていかないと。
あと、人間関係に押しつぶされないように気をつけたほうがいい。つながりのことをたくさんお話しましたが、人間関係なら実は学校や会社にありすぎるくらいなんです。ただそういう関係は、つながりというより集団の論理であって、かつての村社会にもありました。
個人が自分を犠牲にして維持されるような集団をさらに色々作っても、いいことはありません。そういうなかでそれなりの地位を得たいと望む人も出てくるでしょうが、自分をなくすまで集団内の評価にこだわって疲れてしまう。
本来、自分が生きやすくなるために始めたアクションのせいで自分をなくしては意味がないですからね。(了)
──人生100年の時代、貯金をしていても将来が漠然と不安……という方も多いと思います。鶴見さんのお金に依存しない領域を広げていくという生き方は、不安をやわらげる大きなヒントになりそうです。
『0円で生きる―小さくても豊かな経済の作り方―』 鶴見済 著
お金に依存するのはもう止めた! すべて無料で暮らすための「カネ無し生活」マニュアル。たとえ失業したって怖くない。対価なしに不要品を貰う、余っているものをシェアする、まだ使えるものを拾う、元手ゼロで稼ぐ、無料の公共サービスを利用する、自分で栽培した作物を食すなど、収入が激減しても豊かに暮らしていけるノウハウが満載。お金のかからない生活を実践する著者が、新しい「幸福の形」を教えます。