はじめに
あえて「クッキー専門」にすることで個性を
尾上さんは多摩美術大学を卒業後、ジュエリー会社でデザイナーとして勤務。華やかなキャリアのスタートのような印象を受けますが、何がきっかけで方向転換したのでしょうか。以前からお菓子作りが好きだったのですか?
お菓子作りどころか料理すらまともにしたことがありませんでした。私が就職したのは小さなジュエリー会社。社員同士は仲良かったのですが、仕事内容はぜんぜん楽しくありませんでした(笑)。会社と自宅を「何やってんだろうなー」と思いながら往復する、そんな毎日で、華やかさとは全く遠い生活でした。
そんな時、本屋さんで何気なく手に取ったのが、稲田多佳子さんの『“何度も試作してようやくたどりついた”ほんとうに作りやすい焼き菓子レシピ』という本。「スノーボール」を作ってみたら、これが自分でもびっくりするほどおいしくできたんです! 会社にも持って行ったところ皆も「おいしい!」と言ってくれて。嬉しくて嬉しくて、それから通勤電車でレシピ本を読み、週末は家にこもってお菓子を作り続ける、という生活が始まりました。
実際にお店を開きたいと考えはじめたのはいつ頃からですか。「焼き菓子」ではなく「クッキー」のお店にしたのはなぜですか。
お菓子作りを初めて3年ぐらいでしょうか。ちょっと綺麗な話すぎるかもしれませんが、自分にとって誰かが喜んでくれるというのが大きくて、自分の価値を初めてそこで見出せたというか、「これなのかもしれないな」と思いました。
「クッキー」にした理由は自信がなかったから。当時は焼き菓子屋さんがちょっと流行っていた時期で、なんの後ろ盾もない私が気づいてもらうには専門店にするしかないと考えました。お客さんが「へー」となるのは「●●屋さん」じゃないかと。それでクッキー屋になりました。
「好きなことを仕事にする」ことは一番大事にすべきこと
お店の開店を目指した後、最初に転職したのはスターバックスだと伺いました。その理由は? 例えばお菓子作りについて学ぶためにケーキ屋さんで働くなどは考えなかったのでしょうか。
スターバックスにはコーヒーと接客が学びたくて転職しました。さらにマネジメントの考え方について学べたのも自分にとって大きかったですね。お菓子を作ってお客様を喜ばせることも、接客をしてお客様を喜ばせることも、どちらもお客様を喜ばせるという目的は共通なのですが、それぞれの立場のスタッフが考えていることもお客様が実際に喜ぶポイントも異なります。そこをもっと高い目線で俯瞰して、お店をまとめてスタッフを導くために必要なのがマネジメント。マネジメントの大切さを知った上でお店をスタートすることができました。
お菓子作りを誰かから学ぶことについては、自分でも突っ込みたくなるところなんですが、全く思わなかったですね。とにかく、自宅のキッチンでお菓子作りに没頭するのが楽しくて。今でも新しいレシピを考えている時が一番楽しいです!
そのレシピをまとめた『さくほろっしゅわわな ゆかいなおやつ』が2018年11月29日に発売ですね。反対にお店を運営する上で大変だと思う点、苦労していることは?
マネジメントに通じる部分ですが、自分が決めたビジョンに向かってまっすぐ進むことですね。自分が決めたことになのにぐらつくことも多々ありますし(笑)、さらにそれをスタッフも伝えていくことにも難しい部分です。
昨年娘が生まれたのですが、育児との両立にも葛藤の毎日です。周りの協力なしではやっていけません。
尾上さんのように「好きなことを仕事にしたい」と考える女性が増えているように思いますが、それについてどうですか。 また、まさに今悩んでいる人に向けて何かメッセージがあればお願いします。
好きなことを仕事にしたと言うと軽く見られがちですが、まず「そんなには甘くはない!」と伝えたいのと(笑)、振り返ると大変なことも多かったけれど、感動することも多い8年でした。私は今の仕事を選んで本当に良かったと思っていますし、「好きなことを仕事にする」ということは仕事を選ぶ上で、一番大事にするべきことじゃんじゃないかなと思います。
やるべきかどうか悩んでいる人に対しては「やって、まずは失敗しろ!」って言いたいですね(笑)。やった人にしかわからないこともあるし、私もたくさん失敗してきました。失敗したらまた戻ってやり直せばいいだけですから。
クッキー クル
埼玉県北本市中央3-84
TEL 048-593-5324
定休日 日、月、火、不定休
営業時間 11:00〜17:00
(文:新星出版社 編集部 稲垣 飛カ里/写真:山下コウ太)
さくほろっしゅわわな ゆかいなおやつ 著 尾上由子
「クッキー クル」のレシピが1冊に。モデル梨花さんのコンセプトショップ「MAISON DE REEFUR」3周年イベントで販売された幻のクッキーのレシピも収録! 手順がぜんぶイラストのかわいいレシピ絵本です。