はじめに
お金や資産運用に詳しくないという方でも、2018年の終わりから2019年の初めにかけて、株式市場の動きが大きなニュースになっていたことを覚えているのではないでしょうか。
実際、2019年の株式市場は不透明だと言われています。お金の動きに限らないことですが、未来を正確に予測することは極めて難しいものです。「不透明」という見通しは、とても真っ当だといえるでしょう。
それでは、こうした状況で、世界の富裕層はどのように資産運用を行い、お金を守るのでしょうか。「富裕層の資産運用」と聞くと、自分とは遠い世界の話だと思いがちですが、そんなことはありません。今の世代だけではなく、子や孫へと、世代を超えて資産を守っている富裕層の資産運用は、私たち1人ひとりが将来に備えるうえでとても参考になります。
株式市場を覆う3つの不透明要因
まずは、2019年の株式市場について考えるうえでのポイントを、簡単にまとめてみましょう。ポイントは3つあります。
1つは、米国と中国の貿易摩擦です。2018年に特に大きな問題となり、経済ニュースにもたびたび取り上げられました。米国のドナルド・トランプ大統領が、中国からの輸入品に制裁関税をかけることをほのめかしたり実行したことで、米国や日本、そしてアジアの株式市場に大きな影響がありました。こうした動きが2019年も続くのではないかと考えられています。
次に、“通貨の番人”である中央銀行による、金融政策の正常化です。
リーマンショックの後、米国やヨーロッパの中央銀行は、世の中に出回るお金の量を増やしてきました。これによって、特に新興国などで投資が活発になりました。
景気がある程度は回復してきたことから、中央銀行が、世の中に出回るお金の量を減らそうとしています。これによって、一時的に経済成長が鈍くなったり、株や不動産の価値も下がるかもしれません。
なぜそんなことをと思われるかもしれませんが、世の中に出回るお金の量が増え過ぎている状態を元に戻しておかないと、次の不景気や金融危機の時に、打ち手がなくなってしまいます。経済成長が一時的に減速したとしても、中央銀行の示している方向性は、危機への備えとして受け入れるべきなのでしょう。
最後に、テクノロジー投資の盛り上がりです。AI(人工知能)などのテクノロジーが進化していることは、日々のニュースなどでも実感があるのではないでしょうか。100年後に振り返った時、今が歴史的に大きなターニングポイントとなるのかもしれません。
ここに挙げた3つのポイントについて考えるだけでも、2019年の株式市場の動きがいかに読めないか、おわかりいただけると思います。
富裕層はどんな資産運用をしている?
株式市場の先行きが読めないとすれば、富裕層は資産運用の方法を変えるのでしょうか。ここで、富裕層がいったいどんな資産運用をしているのかを見てみましょう。
富裕層向けの資産運用サービスとして長い伝統を誇るのは、なんといってもスイスのプライベート・バンクです。彼らは、過去数百年にわたって、ヨーロッパ中の富裕層の資産運用を任されてきました。スイス憲法の下、厳格な守秘義務が課せられていることでも有名です。
私がかつてビジネススクールで銀行経営の講義を取っていた時、共同論文を執筆したパートナーがスイス人のプライベート・バンカーでした。あるとき彼から、富裕層向けの資産運用の実態について教えてもらいました。
「プライベート・バンクは、特別な資産運用を提供しているの?」と聞くと、彼は少し考えた後、「資産運用のクオリティはとても高いけれど、それ自体が特別ではない」 と答えました。