はじめに

警戒したいのは上方リスクより下方リスク

――いよいよ次の景気後退局面に入った時に、利下げできる余地がほとんどないことになりますね。

2020年に経済が大崩れする可能性はあまりなさそうですが、株価は年に1~2度ぐらいは崩れるものでしょう。その時にまた利下げするようなことがあれば、事態はより逼迫するです。

米国の景気拡張局面はすでに128ヵ月目に入っています。景気は循環するものであり、これまでの過去最長が120ヵ月であることを考えると、いつ失速してもおかしくありません。

現在の株式市場を見ても、企業収益の伸びは明らかに鈍化し、減益決算も目立っているのに、株価が伸びているのは、本源的価値以上の値が付いている状態、いわゆるバブルである疑いを持つのが自然に思えます。

このような状況で、大統領選挙を通過すれば、何が起こるでしょうか。今のような完全雇用状態は当然、永遠には続きません。およそ「働ける人の数」は決まっていますから、失業率が上昇したり、雇用者数が減少に転じる可能性は今後、十分考えられます。それをトリガーに、米国経済の景色が一変する可能性もあるでしょう。

これは悲観論をあおっているわけではなく、シンプルな景気循環の話です。本来なら2018年か2019年が景気の転換するタイミングだったのに、トランプ大統領の拡張財政で延命され、大統領選挙まで維持されようとしている状況です。

2020年いっぱいは米国景気が延命され、為替相場も安定して推移する可能性は高いといえますが、このメインシナリオが狂うとしたら、やはり上方リスクより下方リスクを警戒したいところです。

2021年を待たずに米国の経済指標が崩れ始め、これに応じて株価が調整、FRBが利下げを重ねるに伴って円高ドル安が進むという可能性も捨てきれるものではありません。ここから「米経済が加速する」というほうが不自然なのだと認識することが重要と考えます。

金融市場に浮上した新たなテーマ

――2020年は平和な相場が続いたとしても、油断せずに相場に向き合っていきたいですね。一方、欧州経済は2019年の時点で減速がみられましたが、2020年のユーロ相場はどうみていますか。

ユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)は、現状で▲0.50%という非常に深いマイナス金利政策を採っています。この状況についてはさすがに副作用の強さを指摘する声も上がっており、ここからの下げ余地は限定的でしょう。

FRBの利下げに伴いユーロが対ドルでは若干強含みそうではありますが、いかんせんユーロ圏の金利水準は非常に低いですから、ほぼ拮抗しつつ、ややユーロ高というイメージが続くと思っています。

2019年11月に就任したばかりのクリスティーヌ・ラガルド新総裁の手腕も、注目されます。日本ではようやく徐々に報じられていますが、フランスの政治家出身である彼女は環境問題、とりわけ気候変動に関する論点を重視する姿勢を就任前からのぞかせています。

「中央銀行(金融政策)と環境問題」は新しいテーマです。いろいろな議論があって良いとは思いますが、私は選挙で選ばれたわけでもない中央銀行が、環境問題という政治的なテーマに尽力する必要も権利もないと思いますし、ついでに言えばその能力もないと考えています。

しかし、是非はともかくとして、環境問題は金融市場においても1つの大きなテーマとして浮上してきており、2020年も折に触れてこの論点と対峙することが多くなるでしょう。

また、2019年6月にフェイスブックが独自の暗号資産(仮想通貨)「リブラ」の構想を発表したことに対し、米当局に加えて欧州委員会やECBといったEUの当局からも大きな反発が起こっています。その流れの中で、デジタルユーロを検討する“うねり”もみえてきています。

リブラは既存の暗号資産と異なり、主要国の通貨や国債を裏付けとするため、普及すれば金融市場で無視できない規模のプレーヤーとなり、金融政策にも影響を与えかねないことが懸念されています。

私は当初からそのような懸念は過剰だと考える立場ですが(そこまで懸念されるものであれば、当局が承認するはずがないからです)、このリブラ計画に触発されて中銀デジタル通貨(CBDC)というフレーズが取りざたされるようになっていることは興味深いです。

たとえば、中国の中央銀行である中国人民銀行が計画する「デジタル人民元」は2020年中にも発行が予見される存在です。環境問題とCBDCは2020年の金融市場を展望するうえでの新しいテーマだと言って、差し支えないでしょう。

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