はじめに

不格好な改装で高額の負担

受難はさらに続きます。「管更新」、つまり新しく設置する給湯管が一体どこに設置されるのかというと、部屋の中なのです。

ベランダの給湯器からキッチン、洗面、バスルームまでの各蛇口まで給湯管を新設するわけですから、天井付近をはわせながら、要所要所で壁に穴を開けて通していきます。これが、いわゆる「露出配管」と言われるものです。エアコンの配線カバーと同じものが、部屋の天井をはうわけです。

最も悲惨なのはバスルーム。蛇口の真上の天井に穴を開け、そこから蛇口まで露出配管が設置されるのです。「ピンホール」「露出配管」で検索すると、画像がたくさん出てきますので、どういう状態になるのかよくわかります。

費用もバカになりません。給湯器が設置されている場所から水回りの蛇口までの距離がどのくらいあるかにもよりますが、おおむね100万円前後かかります。フローリングの復旧範囲によっては、もっとかかります。

なぜ銅管が用いられているのか

管理組合でマンション総合保険に加入していれば、漏水調査費用と、調査のために開けたフローリングの復旧費用、それに階下の住戸の復旧費用に対しては、保険金がおります。しかし、新たな給湯管の設置費用に対しては、保険金はおりません。

また、事前に入っておける保険も、世の中には存在しません。何しろピンホールの発生原因は経年劣化です。経年劣化はすべての物件に起こるので、対応する保険など作りようがないのです。

つまり、露出配管が室内をはう不本意な改装に、多額の負担をしなければならなくなるのです。それだけのお金が用意できなければ、工事はできません。お湯を使えば階下に迷惑をかけるのですから、長期間お湯を使わない生活を余儀なくされる場合もあります。

銅管の寿命は実はとても短く、早ければ築15年くらいから穴が開き始め、20年を超えた辺りから増え始めます。つまり、住宅ローンの支払いが終わらないうちに、穴が開き始めます。

それなのに、なぜ給湯管に銅が使われているのでしょうか。その理由は、銅に殺菌作用があるからです。

水道水は塩素消毒されていますが、温められると塩素が飛び、腐りやすくなるのを、銅管を使うことによって防いでいるのです。ちなみに、給湯管に銅を使うのは世界標準だといいます。

10年前まで当たり前に使われていた

日本にマンションが誕生したのは1950年代後半ですが、一般向けに大量供給が始まったのは1960年代後半以降です。1960年代末から1980年代末までの約20年間に建設されたマンションは、約198万戸もあります(国土交通省調べ、2018年12月末時点)。

実はピンホール問題が頻発し始めたのは、今から20年ほど前。つまり、1970年代に大量に建設されたマンションが築30年を超えた辺りからです。

2000年代以降のマンションで床下に横管用の溝を作るようになったのは、ピンホール事故が頻発し始め、コンクリートに埋め込んでしまう工法では、駆体に比べて著しく寿命が短い給湯管の修繕ができないということがわかったからです。

一方、銅に代わる素材はなかなか現れませんでした。ようやく柔軟性・耐熱性・耐食性に優れた架橋ポリエチレンという樹脂素材が一般住宅向けに普及し始めたのは、ほんの10年ほど前から。つまり、築10年超のマンションは基本的に給湯管に銅が使われており、ピンホール発生リスクを負っているのです。

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