はじめに

とにかく長く厳しい銀行員生活

「上司のミスは部下のミス、部下の手柄は上司の手柄ってホント?→ウソ。部下のミスは上司のミス、部下の手柄は上司の手柄です」

繰り返しになりますが、銀行員の最大の関心事は人事評価です。長い行員生活、どこかで一度でも失敗すれば出世ラインから外れる世界です。自分の在籍期間中、在籍組織で成果をあげ、かつ不祥事を起こさないことが重要です。

当然、自分の部下の不祥事は管理者の人事考課に大きく影響しますし、前任のミスが自分の担当期間に発覚すれば責任を取らされます。部下にミスを押し付けるなどということは不可能であり、逆に部下や上司に自分のキャリアを閉ざされてしまうことが多々あります。

筆者は退職するとき、当時の支店長に「君は今同期の中でもトップラインを走っている。何故退職する必要がある?」と問われました。「当行で出世していくためには、いかにミスをしないか、不祥事を起こさないかが重要です。転職ができない年齢になった時、前任の不祥事を被せられるとか、部下のミスによってラインから外れ、残りの人生をこの銀行に捧げることが怖いです」と答えました。

当時の支店長は大変優秀で、頭取秘書まで務め、将来の役員候補とまで言われておりました。しかし、翌年に配属された支店で避けようのない不祥事に巻き込まれ、あり得ないポジションまで格下げされました。部下の手柄は上司の手柄であるかもしれませんが、上司のミスを部下に押し付けられるような組織ではありません。

厳しい世界だが、やりがいのある仕事

銀行員の仕事は、何気ないミスが法令違反になり、一つの送金がマネーロンダリングや不正取引に繋がることもあります。窓口担当者は水際で不正送金や振り込め詐欺を防止する責任がありますし、審査担当者は決算や資金使途に不審なところがないか細部までチェックが必要です。どの職種でも、日々大きなプレッシャーとストレスを受けています。

しかし、どのポジションでも本当にやりがいのある仕事なのです。資金繰りが大変な会社に、その将来性を見通し融資することで救われることがありますし、その融資によって飛躍的な成長を手助けすることもできます。お客様が窓口で送金をするとき、迷惑な顔をされても、なぜこの送金をするのか、原資は何なのかと根掘り葉掘り聞くことで、金融犯罪を未然に防ぐことができます。

筆者はメガバンクを退職してしまいましたが、法令に縛られながら時代と共に大きく変革している金融システムに対応し、厳しい環境で働いている銀行員をリスペクトしています。今でも、銀行員の仕事ができたこと、一緒に働いてくれた行員に感謝と敬意を持ち続けています。

<文:前田 裕紀>

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