はじめに

実需マネーとは

最後に四つ目のパラメーターとして実需マネーを指摘したいと思います。需要マネーとは、貿易や対外直接投資にかかる資金のことです。中長期的なドル円相場の方向性を占う上では最も重要な要素ではないかと考えられます。理由は至って簡単で、資金の流れが一方向だからです。

投機マネーを例に取れば、反対売買が前提の取引であることは言うまでもありません。売りと買いがワンセットであるため、長い目で見て市場の需給に与える影響は中立です。

これに対して、実需マネーは例えば、我が国の輸出企業ならば円買い、輸入企業は円売りが中心で、基本的に反対売買は行わないと考えられます。結局、貿易収支が黒字か赤字かによってドル円相場の需給が歪みます。

円売りドル買いのニーズ

ちなみに、昨年の日本の貿易額は輸出が約76.9兆円であるのに対し、輸入は約78.6兆円でした。なお、日本銀行の鈴木人司審議委員によりますと、ドル建ての比率は輸出が5割弱であるのに対し輸入は7割弱だそうです。その結果、幅を持ってみる必要はあるものの、輸出入のネットで必要なドル資金を円の売却によって調達するという前提で、約15兆円の円売りドル買いニーズがある計算になるとのことです。

また、昨年の海外M&Aをはじめとする対外直接投資額はネットで過去最高の約27兆円となりました。すべてが外貨調達を伴うものでないかもしれませんが、相当な額の円売り需要があったものと想像されます。
 
こうした円売り需要に対して、誰かが買い向かっているはずです。それが反対売買を前提とした市場参加者であれば、将来の円売りエネルギーが溜まっていると考えられます。

かつて、貿易黒字が当たり前だった頃は需給面で常に円高圧力がかかっていましたが、時代が変わり、今や円高は決して自然な動きとは言えません。そろそろ先入観を捨て去る時期ではないでしょうか。

<文:投資情報部  シニア為替ストラテジスト  石月幸雄>

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