はじめに

返せなかったら売りましょう!は任意売却への誘導

銀行は、基本的に任意売却を歓迎しません。もちろん、銀行主導で売却をアレンジできれば、他の住宅ローン利用者が取り込める可能性もあります。しかし、これはごく一部のケースで、基本的に業者主導はとなる任意売却は嫌がります。

任意売却では手数料がもらえるので、専門に扱う不動産業者は当然積極的に広告展開をしています。住宅ローンを一所懸命返してきた人の家なので、長いあいだ空き家になっていたった物件や、何人もの手を経た物件に比べればきれいな物件です。また、困っている人につけ込めるという点も重要です。

このように、住宅ローン返済で困っている人は、任意売却を商売にしている業者にとっては良いターゲットです。だから必要以上に危機感を煽ったり、任意売却がベストとうたったりする結論の記事が溢れているのだろうと思います。業務として任意売却とその業者に接してきた経験からそう感じます。

有利なチャンスを逃したAさん

ここで、銀行員の私が見た任意売却の例を1つ紹介します。Aさんは転職して収入が減り、住宅ローンの返済が苦しくなりました。遅れながらも返済は続けてきたのですが、何度か窓口を訪れ、相談を受けていました。

このころ私は、Bさんという他のお客様から、「〇〇町でいい物件があったら教えてください」と頼まれていました。実は、そこはAさんの家が地域で、その他の希望条件もマッチしていました。

しかし、いくら返済が遅れているとはいえ、今住宅ローンを頑張って返している人に、簡単に売りませんかとは言い出せません。正直、言い出すタイミングを計っていました。

突然の「業者と契約した」

そんな時期、Aさんが「自宅を売ることになったので、話しをしたい」と来店されました。すでに任意売却を決め、業者と仲介契約もしていました。売値を聞き、「決める前に言ってくれれば、もっと有利な条件で売れたのに」と頭を抱えました。

前出のBさんから聞いていた価格はもっと高く、ローン残高に足りない分を自己資金で出せれば、任意売却を銀行が許可できる水準でした。また新しい住宅ローンもできるので、本社に稟議して、不足分は分割払いでも許可してもらおうとも考えていました。

しかし、業者との契約後なら時すでに遅し。ここから口を出すと、不動産業者から、営業妨害と言われる可能性もありました。新しいローン組めるという事情もなくなったので、売値でローン完済ができないとの理由で、銀行は任意売却を認めませんでした。

そのうちに、いつしか任意売却の話しも立ち消えになり、Aさんは住宅ローンをリスケして今を凌いでいます。

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