はじめに

ロックダウンでパリから逃げ出すパリっ子

不動産売買の鈍化に加えて、セカンドハウスの家を本宅にするという傾向も現れました。

特に今年3月に実施されたロックダウンでは、政府による外出制限実施の発表がされた後、都市部から地方へ脱出しようと大規模な移動が起きました。狭い都会の部屋で、いつ終わるとも分からない巣篭もり生活に備えるよりは、テレワークが可能という状況を生かして、別荘で過ごそうと考えたためです。

別荘という言葉を聞くと、日本人のイメージではお金持ちの持ち物のように聞こえるかもしれません。もちろん、フランスでもそれは同じですが、日本のイメージよりはもう少し身近な買い物になっています。そのため、例えばパリの西にあるノルマンディー地方などにセカンドハウスを購入して、夏などまとまった休暇をそこで過ごすという人は、日本と比較して多いです。

調査会社Elabeが2018年に出した統計によると、フランス人の40%が別荘購入の夢を持っており、13%がすでに所有。またフランスは、330万戸を超えるヨーロッパ随一の別荘大国で、全住宅の9.5%を別荘が占めています。またドイツの調査会社Statistaが出したフランスの2018年における別荘購入者の平均年収は、7万500ユーロ(868万円)でした。

日本でも、コロナ禍によるテレワークの推奨で、都市部では郊外の戸建てや別荘に再び関心が集まっているそうですが、フランスは一層その傾向が強まっています。

地方の別荘を本宅に、都心の本宅を別荘に

パリジャン紙に、こんな話がありました。妻と娘、息子という4人家族の47歳の建築家は、パリと地方に家を持っていましたが、コロナ禍が地方移住を後押ししたそうです。彼の場合、別荘を本宅にしたケースですが、パリにある1戸4部屋の物件を引き払ったり、貸し出したりはせず、そこには18歳で学生の娘が引き続き住んでいます。また彼自身も仕事で頻繁にパリを訪れるため、その拠点として使っています。

私の周囲でも、同じようなケースがありました。20代の息子2人を持つ知人夫婦は、コロナ禍を機会に南仏の別荘に長期滞在。ウイルス収束の気配が見えないのと、年齢が60代であるため、無理をしてパリには戻らず、今ではそこが本宅のようになっています。一方で、息子2人は学校に通うため、パリの部屋に住み続けています。

ただし、別荘を求めること自体はコロナ禍により新しくもたらされた現象ではないそうです。INSEEによると、2005年から2019年にかけて、すでに増加傾向にありました。その傾向が、コロナ禍によりさらに加速する可能性はあります。

私の賃貸部屋探しも、コロナ禍特有の利点を得られるのか、それとも内見ができないことなどが原因で、イメージの物件と巡り合えないのか。今のところ、まだ次の引っ越し先は見つかっていません。

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