はじめに
フィリピン経済の3つの原動力
近年、フィリピンの目覚ましい経済発展を牽引してきたのは、(1)BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、(2)オンラインカジノ、(3)海外送金です。これらは今、どうなっているのでしょうか。
(1)BPO
英語が公用語の1つであるフィリピンでは、米国を中心としたグローバル企業のバックオフィスの業務受託が一大産業となってきました。中でも英語力を生かしたコールセンター業務が盛んで、BPO全体の7割を占めています。2010年にはコールセンター業務の市場規模でインドを抜き、世界トップに浮上しました。
しかし、2020年は首都圏のロックダウンなどの影響から、BPO産業全体の売上高は横ばいになると見込まれています。一方で新型コロナの流行をきっかけに、欧米諸国では業務の外部委託に対する需要がこれまで以上に高まっており、中長期でのBPO産業の拡大が期待されます。
フィリピン情報技術ビジネス・プロセス協会(IBPAP)は、2020年から22年までの売上高の伸び率は年平均で3.2~5.5%増となり、金額ベースでは278億8,000万ドル~290億9,000ドルになると予測しました。BPO産業は引き続き底堅く推移する見通しで、フィリピン経済を下支えしていくでしょう。
(2)オンラインカジノ
近年首都圏では、オンラインカジノの起業が急増しています。特に自国で賭博行為が禁止されている中国人向けのサービスが中心で、フィリピン娯楽賭博公社(PAGCOR)によると、現在認可されているオンラインカジノ事業者(POGO)の多くが中国資本です。
オンラインカジノ産業の急成長は、フィリピンに雇用と大きな税収をもたらしただけでなく、不動産市場も押し上げています。フィリピンの不動産コンサルティングのリーチウ・プロパティによると、昨年、首都圏のオフィス需要の44%をPOGOが占め、BPOの31%を上回りました。
一方で、POGOは不法就労する中国人労働者を多く抱えていると見られています。こうした状況を中国側は問題視しており、昨年実施されたフィリピンと中国の首脳会談では、中国側がフィリピン政府に取り締まりの強化を求めるなど外交問題に発展しました。
フィリピン政府はPOGO従業員に対する徴税強化や、営業免許の更新停止などの取り締まりを強化していました。今年に入り、首都圏のロックダウンによる営業停止などの逆風も加わり、関連産業では一部撤退の動きも出てきています。コロナ禍を契機にオンラインカジノ産業に対する風向きは変わりそうです。
(3)海外送金
フィリピンは人口の約1割に当たる1,000万人が海外に移住するなど、世界最大の労働力輸出国です。出稼ぎ労働者によるフィリピンへの送金額は、昨年、銀行経由の金額だけでも300億ドルを超えました。名目GDPの8%を超える海外送金は、フィリピン国内の個人消費を支える原動力となり、フィリピン人の生活水準の向上にも寄与してきました。
しかし、新型コロナの感染拡大による失業などで帰国者が増えたことから、送金額は減少。1~9月の累計送金額は前年同期比1.4%減の218億8,600万ドルにとどまりました。世界経済の回復期待を追い風に、9月単月では前年同月比9.3%増となったものの、先進国で新型コロナの第3波が拡大する中、急回復は見込みづらいでしょう。