はじめに
制度はあっても活用できない日本
日本では、待機児童の問題があります。厚生労働省の発表によると2020年4月1日時点で1万2,439人。政府が目標に掲げた「待機児童ゼロ」ではないものの、3年連続で待機児童数が減少していることは喜ばしいです。
加えて2019年10月から、3歳児以上の幼児教育・保育が無償化されました。その後に続く小中学校の義務教育も無償であり、制度上はフランスと全く同じです。しかし現実は、大きすぎる教育費負担が子供を持つ決断の障害になっていることも、さまざまなデータが伝えるところです。
出産をめぐる社会の環境はどうでしょうか。産後、小さな子供のいる女性が職場復帰することを、会社や社会は歓迎しサポートしているでしょうか。またそれ以前に、子供連れは日本社会から歓迎されているでしょうか。
職場に出産の順番待ちがあったり、ベビーカーが公共の場で嫌厭されたりという報道が思い出されます。妊産婦や子供連れファミリーを受け入れてくれる環境があれば、これから子供を持とうとする世代には心強いことでしょう。
両国の違いは環境の差?
こうして眺めてみると、フランスと日本、補償や制度には大差が無いのに「子供を産み育てやすい国」という認識に開きが出てしまうのは、この環境面に原因がありそうです。制度があっても使えないという現実が、出産と育児を困難なものにしているのではないでしょうか。
パリがあるイル・ド・フランス地域圏と、東京のある南関東地方を、OECDの「より良い暮らし指数(Better Life Index)」で比較してみると、社会とのつながり(Civic Engagement)と教育(Education)の満足度が、日本は非常に低いことがわかります。
今後、もし制度はあっても活用できず、家庭の教育費負担が重いままならば、日本の「良い暮らし指数」はさらに落ち込み、「子供を産み育てやすい国」と感じる人はさらに減少するでしょう。そう考えると、良い暮らしの環境作りこそが最良の少子化対策なのかもしれません。
パリを一望するテラスレストランではベビーカー持参でくつろぐファミリーの姿が(2020年夏)