はじめに
日銀のETF買いは「相場を買い支え」たのか
日銀のETF購入は、「株価を押し上げなかったかもしれないが、買い支えにはなったのではないか」という意見があります。
例えば、2020年の日経平均は年間で16%上昇しましたが、売買代金の7割を占める海外投資家は年間で6兆円以上の売り越しでした。海外投資家が年間で売り越しとなりながらも、2桁の上昇率を達成したのはバブルのピークだった1989年以来のことです。
2020年、日銀のETF購入額は7兆円強と、年間での最大の買い越し主体となり、海外投資家の6兆円超の売りをすっかり吸収し日本株を支えた構図です。
だから「日銀がETFを買わなければ海外投資家の売りをまともに食らって日本株は上がるどころか下落していただろう」という声がありますが、それは所詮、検証できないことです。
「日銀の買いがなかったならば」という仮定では、売りも引っ込んでしまったかもしれません。上述した通り、売りと買いは常に同数です。買いがなければ売れません。閑散に売りなしという言葉はそれをよく表しています。
「日銀の買いがなかったならば」は検証できませんが、買ったらどうだったかは分かります。ちょうど1年前の3月、市場は暴落し続けました。その時、日銀は連日ETFを買いました。でも相場は下げ続けました。日銀の買い入れ額が一段と増加したところで株価は下げ止まったように見えます。でも、それは「日銀がETFを買ったから」下げ止まったのでしょうか。
仮に日銀のETF買いが日本の株価に影響を与えているとすれば、FRB(連邦準備理事会)がETFを購入していない米国株と比べてなんらかの異なった動きが見られるはずです。米国株は下げ続けるが日本株は先に下げ止まるとか、米国株ほど下がらない、などです。そのような動きになっていたでしょうか。
過去1年のTOPIXとS&P500の推移を見てみましょう。両者がまったく同じ動きをしていることが見て取れます。これは日銀ETF購入が株価に与える影響は限定的であることの証左ではないでしょうか。
過度に日銀のETF買いを材料視するのはそろそろやめにして、株価に影響を与えるのは景気や企業業績、金利の動向などファンダメンタルズのほうがずっと大きいという当たり前のことを思い出す時だと思います。
<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>