はじめに
ベテラン投資家の「失敗」
ベテラン投資家の予想に反して、なかなか米ドル/円は下がりませんでした。一方で、米ドル/円の当時のスワップ・ポイントは、米ドル買い・円売りならプラスでしたが、米ドル売り・円買いではマイナスだったので、スワップ・ポイントの支払いも次第に重荷となってきたようでした。そんな状況が長期化する中で、この投資家は一旦、米ドル売り・円買い取引からの撤退を余儀なくされるところとなってしまったのです。
ここが大事なポイントです。FXは買いだけではなく、売りもできるという「特徴」がありますが、それを不確実な相場観に頼り過ぎることは危険だということです。上述のケースは、FXの成功体験を多く持ち、長く取引してきたベテラン投資家であり、別な言い方をすると何もわからない「素人」ではありませんでした。ところが、逆に自らの経験に裏付けられた相場観に自信があったことこそ、災いになったと推測します。
金利差を味方にする
これまでにも述べてきたように、FXの収益機会は、キャピタルゲインとインカムゲインの2つに大別されます。価格変動に伴う収益がキャピタルゲイン、そして金利差利益がインカムゲインになります。重要なのは、この2つの収益機会の性質が大きく異なるということでしょう。
FXの2つの収益機会のうち、相場の変動を当てることと金利差を得ることは、確実性というテーマで考えた場合は、かなり対照的な位置付けになります。ですから、不確実性の高い相場観に頼り過ぎにならず、安定的な金利差を味方につけるためには、なるべく金利差と整合性の高い取引をするということが重要でしょう。
わかりやすくするために、具体例をあげてみてみましょう。金利が高い順に「米ドル>円>ユーロ」だった場合、最も金利の高い米ドルが下がると予想するなら、米ドル/円よりユーロ/円を売る方が良いでしょう。
米ドル/円が下落する場合、それに連れてユーロ/円も下落する可能性が基本的には高くなります。ところで、同じように下がると予想しても、米ドル売り・円買いでは金利差が支払いになる可能性があるのに対し、ユーロ売り・円買いでは金利差は収益になる可能性もあるからです。
相場予想に反して、対円で米ドル、ユーロがなかなか下がらない場合でも、ユーロ/円の場合は金利差収入がトータルの損失をカバーし、取引の継続の道を開いてくれる可能性があるわけです(※)。相場観によほど自信がある時以外は、できるだけ金利差と整合的な売買を選択することが、取引を長く続けられるコツと言えるでしょう。
※金利差とスワップポイントは、異なる場合があります。
それにしても、この「よほど自信がある時」というところが微妙ですね。ほとんどの場合、そして誰でも、最初から外れると思って予想しているわけではなく、結果的に外れてしまったということでしょうから。
そうであればなおさら、価格変動を予想して収益を狙う相場観の自信を元にした売買とは別に、足元の金利差と整合性ある売買を意識する=金利差を味方につけることが、取引の「成功」のためには必要なのかもしれません。