はじめに
盾の経営
業務スーパーの店舗コンセプトは実にシンプルだ。ロス・無駄・非効率を徹底的に排除する。商品構成もその考えが基本となっており、決してブレることはない。
商品陳列には一切、見栄を張らない。常温食品についてはパレットに商品を積むウォルマート・スタイルをさらに上回る、段ボールに入ったままで売るいわゆる「箱陳」(ハコチン)が業務スーパー流。
いったん売場に出した商品はバックヤード(倉庫)には戻さない。エブリデイロープライスなので、年に数回のほかは特売広告は出さない。できるかぎり従業員の作業量をセーブする意味合いもあるが、一番の狙いは販売管理費の圧縮だ。徹底した無駄の排除により、ウォルマートの販管費率16%を下回る14%を実現している。すべては業者が使う商品を1円でも安く利用客に提供するためである。ちなみに日本の食品スーパー大手(ヤオコー、ライフコーポレーションなど)の販管費は25~30%といわれている。
沼田はこう語った。
「私は『盾の経営』をやろうとしたのです。『盾と鉾』の盾です。人口がどんどん減っていき、高齢化社会になり、一人あたりが食べる量が減る時代に変化を遂げた。そんな変化が起きているのに、これまでどおりに広告をどんどん打って攻めていく『鉾の経営』は時代にそぐわないでしょう。『盾の経営』で力をつけるためにすることは、とにかく初期投資を抑えていくことでした。
私はSPAのみならず、製造販売の世界においては、『技術と頭脳の勝負』だと考えています。やはりバイイングパワーが上がってくれば、仕入れ力がつくので必ず利益は上がるし、それは当然で有難いことであり、すべきことなのです。しかし、本当に『盾の経営』をしようと思えば、やはり他社にできない技術と頭脳は必要不可欠なのです。
だから、毎日勉強していますし、いくつかの特許申請に至ったものもあります。私の特許の面白いところは、あらゆる添加物が入っていないことです。空気中にあるもの、人間の体にあるものだけで活性オゾンも活性塩素も作っている。これがないと、神戸物産のオンリーワンの加工はできません。この特許はブラックボックスで、すべてをオープンにはしていません。ただ、他社に真似されたら困るのでそこのポイントだけは特許を取っておこうということです」
21年前の開業当初は店に訪れる業者と一般客の来店数シェアは半々であった。ところが、次第に一般客が増えてきて現在に至っては一般客が9割を占める。大家族の需要というニッチを狙ったのだが、予想外に核家族にも受け入れられたのだ。
店に並ぶのは約3000アイテムで、通常の中型食品スーパーに比べて10分の1以下の品揃え。主力は冷凍食品、それにレトルト、缶詰など賞味期限の長いものだ。賞味期限が短い生鮮品は極力扱わない。
なぜアイテム数をここまで絞り込んだのか。沼田の理屈はこうだった。
「回転の芳しくない商品を置き続ける非効率が生じさせるコストアップを、お客さんは歓迎しないはず。だからうちは完全に割り切って、売れ筋しか置かないことにしました」
通常の食品スーパーなら必ず揃えている国内ナンバーワンのNB(ナショナルブランド)、醬油のキッコーマンやマヨネーズのキユーピーなどをほぼ扱っていないのも特徴的である。これは他店との価格差を付けにくいことと、消費者が業務スーパーにそれを望んでいないという弁えからだという。
輸入品は業務スーパー本部として機能する神戸物産が約40カ国の海外メーカーとダイレクトに取引し開発、商品はすべてコンテナで運ばれる。自社開発商品はおおむね大容量である。
商品の発注に関してもロスを生じさせるリスクは徹底的に省かれている。業務スーパーで扱う商品は当然ながら、コンスタントに売れているベーシック商品、要はどうしても欠品してはならない商品と、日本で売れるかどうかわからないチャレンジング性が高い輸入品に大別される。
輸入品については、とりあえず最小限ロットの1コンテナだけ輸入して、各店舗でテスト販売を行う。売れるようであれば、次は2コンテナ分を発注することが多い。もともと賞味期限も長いし、神戸物産ではそうした発注ロスはほとんど発生しない。
FC加盟店からの発注状況に合わせて計画生産を行うことから、製造面においてもロスが出にくい仕組みになっている。