はじめに
冷凍食品への強烈なこだわり
長時間取材を行ったとき、沼田は冷凍食品で勝負する理由をこう語った。
「モノを作る技術なくして、それが安全、安心なのかはわかりません。要はメーカーの言いなりでは、それを判断できないということです。なぜ業務スーパーのメイン商品が冷凍食品なのかをお話ししましょう。
食品の保存性を高めるためには、水分活性を低く抑えて、微生物の繁殖を防がなくてはいけません。水分活性を抑える方法は飽和塩蔵 、乾燥、冷凍、加熱包装の4つ以外にはありません。何千何万という商品のなかで、この4つ以外に添加物が入らないものはないわけです。チルドでやれば防腐剤、保存料を入れなければできません。
飽和塩蔵のものでは、昔は塩漬けのワカメがあったけれど、いまどきそんなものはありません。乾燥のものでは、やはりワカメ、カンピョウ、シイタケくらいでしょう。残るのは二つ。添加物なしで物理的科学的な変化や水分活性の問題を考えると、冷凍がメインになるのは"自明の理"なのです。
味付けした食品の賞味期限を延ばすには限界があります。味付けして、そのまま防腐剤や添加物が要らないのが、冷凍です。それと私はもともと防腐剤や添加物が大嫌いなのです。そして冷凍食品は生鮮三品が強いスーパーほど扱われていない。
将来は核家族になる。核家族になれば、姑はいない。姑がいなければ、料理はできない。料理ができなければ、味付けをした食品が頼りになる。選択肢は冷凍食品以外ありません」
冷凍ケースについて沼田が参考にした海外企業はコストコだったという。
「かつてのコストコはいまのリーチインタイプではなかった。21年前にはまだ日本には上陸していなかったですね。海外のコストコには相当通いました。
業務スーパーを始めるにあたって一番役立ったのはもちろん、海外での学びでした。小売流通が発展している主な国にはだいたい30回から50回は行っているのです。米国でもヨーロッパでも、メインの国には50回以上出掛けています。30代に入ってからは2カ月に3回程度、月に1回以上のペースで海外の小売流通を見て回っていました。
商業団体が主催する視察ツアーには参加したことはありません。自分の意志で目的を持って、海外に行きましたね」
ここでは沼田に聞きそびれたのだが、おそらく売場についても、コストコを参考にしたフシがあった。それは一度売場に出した商品はバックヤードに戻すことはないシステム。つまり、売場が保管庫を兼ねているところだろうか。
話は冷凍ケースへと戻る。
「冷凍がメインだし、メーカーの都合もあるので、売場のど真ん中に大型の冷凍ケースを置くことにしました。でも普通のものでは物足りないので、沼田がすべて設計して冷凍機メーカー1社と新モデルを共同開発しました。
一番わかりやすいのが大きさ。通常のモデルよりもサイズが数十センチも深い設計にしたのです。品出しの回数が少なくて済むのが最大のメリット。どのように冷凍ケースを改良すれば、たくさん冷やせるのか、より効率的に冷やせるのかを、継続的にメーカーとすり合わせてきました。長きにわたってブラッシュアップが続けられている。メーカー名? 神奈川のオカムラです」
業務スーパーの新店を出すときには、現在は2社の冷凍ケースが標準装備として必ず導入されることになっているという。
開業当時の業務スーパーの商品のメインは中国産の商品であった。なかでも大連市の自前工場で生産、輸入した冷凍野菜、冷凍加工食品はとんでもなく安く、他のスーパーの5分の1といった価格破壊をやってのけた。商品はバカ売れした。
「場所はあんな片田舎だが、抜群に安い食品スーパーができた。それがプロの業者向けの店らしい」
「あのボリュームと安さはすごい」
「ふだん行くスーパーとは違う商品があるので面白い」
噂が噂を呼び、業務スーパー各店の駐車場が満車になる日が増えていった。