はじめに
なぜ、「プラットフォーム」という言葉を使わないのか
アマゾンを含めたGAFAは巨大なプラットフォームを構築することによって、文字通りそれぞれの分野での土台、基準となり、顧客、パートナーに利便性を提供する。同時に、それらがスタンダードとなり圧倒的なポジショニングを確立し成功している。
だからこそ、それらの企業は各国で米国などのAntitrust Law(反トラスト法と呼ばれる競争法)や日本などの独占禁止法を管理する行政から常に注目されてしまう。アマゾン内部では「プラットフォーム」という言葉は使用しない。プラットフォームという言葉には、市場をコントロールし独占し得ることを示唆するイメージがあり、アマゾンはそれを目的にはしていないというポジションを明確にしているからだ。
同様に「マーケット」や「マーケットシェア」という言葉も使用しない。これは、アマゾンはリテール(小売)マーケットの中でビジネスを展開しているのではなく、あくまでもEコマースという限られた「セグメント」(顧客層=ある市場における特定の基準をもとに分割した一つ一つの層)で事業を展開していることを、正しく社内外ともに認識させておかなければいけないという意図がある。
ビジネスプランなどの社内文書では常に「マーケットセグメント」「マーケットセグメントシェア」という用語を使うことが求められる。
2020年度の米国でのEコマースにおけるアマゾンのマーケットセグメントシェアは39%で、2位である「ウォルマート」の5.3%に大きな差を付けている。しかしながら、小売マーケット全体でのシェアはわずか数%程度に過ぎない。
この数字からもいかにアメリカの小売マーケットが巨大であるかがわかる。アマゾンがEコマースではマーケットセグメントリーダーになりながらも、さらに小売マーケットのEコマース化が進めば、まだまだ成長の余地があり、そして、アマゾンがさらなる成長を目指すことができることがわかる。
最大の投資はポジティブ志向の物流費
アマゾンの決算資料を検証すると、前述の通り成長に伴って物流費が増えている。2021年度の対売上比率は実に16%に達している。アマゾンでは膨大な数の商品を受注に応じてより広いエリアで迅速に配送するため、「フルフィルメントセンター」と呼ぶ独自の配送拠点を各国に整備、増設を続けている。
現在、世界で185カ所、うち米国110、日本18となっている。加えて、継続したフルフィルメントセンターの増設、テクノロジーへの投資、欧州における倉庫従業員のスト対策、米国などでの人員確保などを目的とした最低賃金の引き上げ、さらには「3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)」と呼ばれる外部物流会社のコスト増などが、物流費増大の要因だ。
日本においては、従業員の労務環境の社内問題から、配送料の値上げと請負数削減を断行したヤマト運輸のニュースがかつて大きく報道された。ただ、これが一つのきっかけとなってアマゾンは日本国内においても自社物流網の構築を加速化することになったのは想定外であったことであろう。
ただし、物流費が増えるのは上記のコスト増のみによるものではなく、アマゾンにとって必ずしもネガティブなことではない、すなわち投資を続け、顧客の利便性向上を追求している結果でもある。
迅速で高品質な配送、さらにはロングテール(詳細は第2章で述べるが、販売機会の少ない商品でも幅広く取り揃えることで、顧客の需要を満たし、顧客層数を増やすことを目的とした販売手法)を具現した圧倒的な品揃えを支えるアマゾンの骨幹となっているのが、ロジスティクス(商品の受注から配達までの効果的な物流を計画、実行、管理すること)、物流ネットワークであるからだ。
創業以来、フルフィルメントセンター増設だけではなく、継続した改善活動、ロボット導入などの自動倉庫システムの推進、棚の充填率の向上、受注から発送までの時間短縮などはハード、ソフトのテクノロジーの集結である。
継続した投資を行い、赤字を出さざるを得ない状況であっても顧客へのサービス強化を優先してきたことが、他のEコマース企業を圧倒するアマゾンの強み、魅力となって顧客の信頼を集め、企業として成長し続けてきた。そして成長し続けているからこそ、投資家からの期待と資金を集めることができている。