はじめに

大事なシグナルを見逃す人は、儲けも逃す

牛肉とオレンジの輸入自由化にまつわる事件が私たちに示唆することは何でしょう。それは、世の中には「流れ」があるということです。そして、どんなに力のある人でも、流れには逆らっても逆らいきれるものではありません。さらに、この流れはある日突然変わります。いや、本当は流れが変わりそうなシグナルがいろいろなところに出ているのですが、大量のノイズに交じっているため多くの人が気付かないです。

また、ある政策に対して肯定的な情報と否定的な情報が入り混じって判断に困るケースも多々あります。そんな相反する2つの主張のうちどちらが正しいかを見分けるためには、「一人ディベート」が役に立ちます。ディベートの良いところは、与えられた論題に対して、自分の考えに関係なくくじ引きで肯定、否定の立場が決まることです。例えば、「日本は日米安保条約を廃止すべし」という論題に対して、くじ引きで「安保継続」側になってしまったら、自分自身が安保廃止論者であったとしても、「日米安保は必要だ、廃止すべきでない」と反対の主張をしなければならないのです。

普段私たちが何の気なしに生きていると、自分と正反対の立場に立って徹底的にロジックを組み立てて論争することはまずありません。私はデフレ脱却の必要性を著作などで説いていますが、同じぐらい労力をかけて「デフレ継続」を訴えたり、ましてそれを書籍化したりすることはありません。

ところが、ディベートの場合、くじ引きによって「デフレ継続」側に無理やり立たされたら、それに合わせてリサーチし、データを集めて解釈し、最終的には立論して文章にまとめなければいけません。ディベートでもなければこんなことは絶対にあり得ない話です。

しかし、敢えて自分の主張と反対の立場を取って、その主張の根拠となる資料のリサーチなどを行うと、相手がそういう主張をする理由や背後にある利害関係など、自分では考えもつかなかったことがいろいろ分かるようになります。また、自分に反対する人間がどのような疑問、質問を投げかけてくるか、あらかじめ反論を想定できるようにもなります。

ディベートにおける「敢えて自分の考えとは反対の立場を取る」という技術を応用すれば、世の中に出回る書籍やマスコミ報道などが本当に正しいのかどうかを検証することができます。読後感銘を受けた主張などに対して、自分自身で敢えて否定側に立って反論してみるわけです。「一人ディベート」が明らかにすることは、次の2点です。

1.ある主張に「反証可能性」がある
2.その主張は「反証可能性」があるにもかかわらず現時点では論破できない

「反証可能性」というのは、その主張が論破される具体的な要件が明確に定義されているということです。要は、「これが証明できたら自分の主張を撤回してもいい」という条件を明確に提示することが「反証可能性」を示すことになります。例えば私が「お金の供給量を増やせば必ず物価が上がる」という主張をする場合、「お金の供給量をいくら増やしても物価が上がらない」とか、その反対に「お金の供給量をいくら減らしても物価が下がらない」ことが証明されると主張を撤回しなければいけないことになります。

このように、溢れる情報から相反する主張を拾った際には、その2つを一人ディベートでぶつけて反論、再反論を重ねることでどちらの情報が現時点では正しいかの判断が可能です。そして、これこそがノイズからシグナルを見分ける方法でもあります。

しかし、多くの人はこういった頭を使う作業をせず、「偉い人」や「頭のいい人」や「みんな」が言っていることは正しいとばかりに他人の考えを鵜吞みにしてしまうのです。そのことによってノイズは増幅され、シグナルはノイズに埋没して見えなくなってしまいます。大事なシグナルを見逃す人は、儲けも逃す。世の中は厳しい。

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