はじめに
(1)利益が800万円以上で所得税を節税したい
個人から法人になる場合のボーダーラインは、一般的に「800万円以上の利益が出れば」と言われています。節税の観点からこのように言われていますが、厳密には税金だけでなく、個人で支払う国民健康保険料+国民年金の金額と、会社から給与をもらって社会保険料を支払う場合との比較も加味した金額になっています。
厳密にいうと税金だけの比較では有利不利の判定はできませんが、どのような理由で800万円という線引きがされているのかお話しします。
個人の所得税は「超過累進制度」といって、だんだん税率が階段式に上がっていくという制度になっています。一番下は5%から始まり、一番上は45%です。所得税の計算は、まず所得(もうけ)から控除(引く分)を引き算して、残った金額(税金がかかる分)に税率を掛け算することになります。つまり、「この金額超えたところは10%だよ〜、次のここを越えると20%だよ〜」と、税金がかかる分が多ければ多いほど、税率が高くなるので税を多く払っている、ということになります。
例えば、所得が年間400万円だったとして、控除を集計して80万円になったとすると、「400万円 ― 80万円 = 320万円」となり、この320万円に税率をかけていくことになります。所得税の税率について、詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください。
ここで、所得税の税率を詳しく見てみましょう。
はじめは全員5%からスタートですが、このように、所得税は課税される所得金額が高くなればなるほど、その税率で払う税金が増えていくということになります。課税される所得900万円未満の部分が23%であるのに対して、900万円以上の部分は33%と一気に大きく税率が跳ね上がりますね。
法人税と所得税
個人の所得税の計算過程をみて、どうすれば税金が安くなるか、わかりましたか? そう、 「課税される所得(もうけ) ― 控除」の金額が安くなれば税率も低いところでおさまりますね。
一方、法人税はもうけ分が800万円以下なら15%、800万円を超えた部分は23.2%です。個人の所得税は330万円以上で20%になるので、所得税と法人税の税率だけを比較すると、「もうけが330万円以上で法人の方がお得?」と思うかもしれませんが、他にも考慮しなければならない税金があります。
個人なら所得税の他に住民税10%があるのと同様に、法人も法人住民税があります。地域によってまた儲かった分によって異なりますので個別に判定が必要になりますが、東京都の場合は20%ほどです。
上記は税率だけ比較した表になります。ただし、税額の計算は一律の税率で掛け算するのではなく、これを過ぎた部分がこの税率になるよという「超過累進税率」を適用します。超過累進制度のボーダーラインのみを表にしているので、厳密にいうとこのような簡単な比較表にはなりません。目安のために一覧表にしただけで、本来なら個別に金額から税額を比較する必要がありますので、誤解しないでください。
この表からざっくりみていただくと、もうけが900万円のラインから税率が並び、1,800万円以上からは法人がかなり有利になります。この「もうけ」について注意が必要なのは、個人の時は純粋に商売の利益分だけが「もうけ」になりますが、法人の場合はこの利益から自分自身に給与を払って、経費にすることになります。そのため、個人のもうけ分よりも、自分に支払う給与分の利益が少なくなります。
また給与以外にも、法人になると、社員のための福利厚生費など計上できる経費も増えます。法人化した場合に経費にできるものには、それぞれ細かくルールがありますので、もし法人化する場合には、必ず税理士に経費に上げるためのルールを確認してください。
・個人の時よりも経費に上げられるものが増えて利益が目減りする
・国民健康保険料+国民年金の金額よりも社会保険料を安く抑えることができる
この2点を踏まえると、個人事業主としてのもうけが800万円を超えたあたりから、法人化した方が節税などのメリットがあると言われているのです。個人の所得税が累進課税で、低い所得では税率が低いこと(5%や10%)を考えると、個人での所得を残しておいて個人と法人の2つにもうけを分け合う方法が有効です。