はじめに

法人が消滅し、すべての債権・債務が整理され、社員は解雇。取引先や関係者との関係もリセットされ、経営者個人が一般の人に戻る「倒産日」は、どんなことを考えて決めるべきなのでしょうか?

そこで、弁護士の福西信文 氏の著書『「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方』(合同フォレスト)より、一部を抜粋・編集して会社が倒産する日の決め方について解説します。


破産の判断軸とは

会社や経営者個人の未来を考えて、戦略的に破産を選択する意義について考えていきます。「破産」というものがどのような性質をもつ制度であり、何のためにあるのか、あるいは破産した後、どうなるのかまでみていきましょう。

キャッシュフローの改善が見込まれるか

破産を選択する場合の検討材料として、わかりやすいのはキャッシュの枯渇です。向こう半年、あるいは3カ月の事業運営を考えたうえで、資金繰りがもたないことが明らかなのであれば、やはり破産を考え始める必要があります。
 
もちろん、新しい融資を受けられる可能性があったり、もう少し頑張ればお金が入ってくる見込みがあったりする場合は、事業を継続させることも検討できます。しかし、事業として営業キャッシュフローを生むことができなければ、いずれは破綻せざるを得ません。

そのような状態になると、自力で再生できない限り、会社をたたむ選択をすることになります。また、前章でも説明したように、営業キャッシュフローを生む見込みがあったとしても、公租公課の滞納が多くなってしまうと、いずれは事業継続が困難となります。

つまり、事業そのものとしてお金を回していけるかどうかに加えて、税金も含めた支出もきちんとカバーできるかどうかが、事業継続の鍵となるのです。PL(損益計算書)の部分で営業収益が出ておらず、BS(貸借対照表)の部分での負債の大きさが、収益以上に上回ってしまうことがひとつの判断軸になるでしょう。

事業の将来性が見込まれなければ、傷口を広げない方策を考える

なかには、資金繰りに窮した会社でも再生できる場合があります。ただ、その多くは公租公課の滞納が少ないケースです。

加えて、将来的に事業が成長・拡大する見込みがないのであれば、できるだけ早い段階から破産を選択肢に入れておいたほうがいいでしょう。中長期的に考えて、営業利益が出ないということであれば、傷口を広げない方策を検討するべきです。
 
一定規模の企業であれば、リストラや役員報酬の減額、あるいは固定費削減によって状況を改善できる場合もあります。ただし、中小企業の場合、それらの施策を行っても効果は限定的であることが少なくありません。たとえ急場をしのいでも、業績の改善は容易ではありません。
 
その結果、会社の破産を選択することになります。また、社長が会社の連帯保証人になっている場合や、社長個人が借入れしている場合は、社長個人の破産も同時に選択せざるを得ないケースがあります。
 
金融機関との保証契約については、「経営者保証ガイドライン」によって状況が少しずつ変わってきています。そのため、個人保証によることなく融資を受けられていれば、「会社の破産=社長個人の破産」にはなりません。
 
ただ、経営者が個人的に誰かからお金を借りていたり、それを事業存続のために利用していたりすると、会社がなくなっても個人の負債が残ります。その負債を返済できる目途がたたなければ、いずれにしても自己破産することになるのです。
 
事実、中小企業における破産の大半は、代表個人が知人や友人からお金を借りていたり、サラ金や街金、あるいはいわゆる〝ヤミ金〟からお金を借りていたりします。そうなると、問題は法人から個人へと移行し、個人も自己破産する結果となります。

経営者の中には、責任感が強く、真面目な人も多いです。そのため、社員のため、取引先のため、あるいは家族のためを考えて、どうにか会社を存続させようと頑張ります。しかし、その頑張りが個人的な負債を増やしてしまうケースも少なくありません。
 
難しい問題ではありますが、これについては個々人が判断するしかありません。個人的にお金を借りて、それを事業につぎ込んだとしても延命するだけであるのなら、英断を下すことも必要でしょう。たとえその決断がつらいものであっても、冷静に決断することが求められます。

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