はじめに

良い破産と悪い破産

「会社をたたむ」という意味において、すべての倒産は基本的に同じ道をたどります。すなわち法人が消滅し、すべての債権・債務が整理され、社員は解雇。取引先や関係者との関係もリセットされます。そして経営者個人は、一般の人に戻ります。
 
ただ、それはあくまでも、法的な手続きにのっとって破産を進めた場合です。通常の破産は、裁判所を通じて手続きを行い、破産管財人によって財産調査や清算が行われ、債権・債務の状況が整理されていきます。

社員や債権者から逃げてはいけない

法人の破産手続きが終わると、経営者個人の負債もある場合は、個人の自己破産も行います。それで免責を得られれば、借金からは解放されることになります。そうして改めて個人としてもリスタートできるようになるわけです。
 
しかし、そのような手続きを経て再出発せず、社長が夜逃げや雲隠れなどをしてしまったらどうなるでしょうか。債権者は資金の回収目途が立たなくなり、社員は途方に暮れてしまいます。また、取引先をはじめとするその他の関係者も、ただ困ってしまうだけです。「会社が破綻する」という意味ではどちらも同じですが、きちんと債務を処理する場合と、すべてを放棄して逃げてしまうのとでは、残された人への対応が大きく異なります。やはり夜逃げは、自分のことしか考えていない、身勝手な対応と言えそうです。
 
少なくとも、経営者には法的な手続きにのっとって債権者と向き合い、誠実に対応することが求められます。目の前の窮状から目をそらすのではなく、債権者には事情をきちんと説明し、頭を下げることによって、本当の再出発ができるのではないでしょうか。

誠実な対応が自身の免責につながる

 
破産手続きに関してよく言われるのは、金銭的な配当だけでなく、「なぜそうなったのか」を説明すること、つまり〝情報の配当〟が重要ということです。社員も取引先も、あるいはその他の利害関係者も「なぜ事業が破綻したのか」を知りたいと考えているためです。
 
情報の配当が適切に行われないと、周囲は納得してくれません。手続きを行う裁判所としても、当事者がどう対応するのかを見ています。だからこそ、最後まで誠実に対応することが求められます。そうすることで、未来がつくられるのです。
 
たとえ会社がなくなっても、事業が立ち行かなくなっても、人生が終わるわけではありません。すべての当事者には、破産後の未来があります。とくに社長の場合、当該企業の経営者ではなくなるため、その後の人生プランも考えておく必要があります。
 
ちなみに個人の免責においては、裁判所が裁量で判断することもあるというお話でした。そのため、破産手続きに対し、誠実な対応ができているかどうかは見られていると考えたほうがいいでしょう。そして、そのときの姿勢が、免責の結果につながります。
 
もちろん、必要事項をきちんと報告し、破産管財人に対しても適切に対応していれば、多くのケースで免責が不許可になることはありません。特別なことをするのではなく、常識の範囲で、真面目に対応すればよいのです。
 
求められた情報を提供し、調査にもきちんと協力する。そのような過程を経て、裁判所も免責の判断をしています。とくに裁判所は、破産管財人の報告書を見て最終的な判断を下すため、きちんと協力するようにしてください。
 
なかには、最後の最後で自らの保身に走る人もいます。財産を隠し、破産後の生活を有意義に過ごそうとする人もいます。ただ、それがバレてしまうと、免責どころではなくなってしまいます。やはり、破産管財人に対し、不誠実な対応は許されないのです。
 
そのような画策をするよりも、破産後の生活をどう立て直していくのか、きちんと考えたほうが無難です。会社員に戻る人もいれば、新たに事業を始める人もいます。いずれにしろ、何らかの準備が必要となります。
 
とくに重要なのは、人間関係の修復と構築です。破産手続きに対し、誠実に対応している人ほど、相手もまた「お互い様」と思ってくれます。そこから次の活動につながることもあるでしょう。そうした行為ができてこそ、〝良い破産〟と言えるのです。

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