はじめに

2022年11月19〜20日、“みんなで学んで、一生役立つ。”をテーマにしたオンラインイベント「お金のEXPO2022 オンライン」が開催されました。

19日に行われた『「歴史的円安」の局面、資産形成はこれからどのように行動すべき?』では、マネックス証券チーフ・FXコンサルタントの吉田恒氏による、円安局面での外貨投資についての収録講演が放映されました。

本記事では、内容を一部抜粋・編集して紹介します。

歴史的な円安はなぜ起こったか

円安は終わりに近い可能性があるということですが、そもそもこの円安はどのように起こったのでしょうか。次は鳥の目ではなく、もっと近づいて虫の目でドル円相場を見てみましょう。

上のグラフは2021年1月からのドル円相場(青)と米2年債利回り(赤)を重ね合わせたものです。2年債の利回りと政策金利は同じ方向に動くことから、赤い折れ線はアメリカの金利と捉えてグラフを見てみましょう。今回の円安の進行というのはスタートがまさに2021年1月の102円でした。2つの折れ線を見ると、アメリカの金利が上昇するにつれてドル円相場がドル高円安の方向に上昇していくのがわかると思います。

簡単に説明すると、アメリカはいま40年ぶりと言われるほど大きく物価が上昇していて、そのインフレへの対策として中央銀行にあたるFRBが、大幅に政策金利を上げる金融政策を行っています。アメリカの金利が上がるということで、世界中の人がドルを買いますから、ドルの価値が上昇し、その裏返しとして円安が起こっているということになります。

一方で、世間では「日本銀行が金融緩和を継続しているから円安が起こっているんだ」という声をしばしば耳にします。「日銀のせいで円安」という理解をしている方も多いと思うので、念のためにその真相を確認してみましょう。

このグラフはドル円相場(青)と日本の2年債利回り(赤)を重ね合わせたものです。日本は長らくゼロ金利政策を行っているため、赤い折れ線は0%近くでずっと横ばいの状況となっています。今回の円安は日銀のせいだとしばしば言われていますが、日本の金利は長い間ほとんど動いていないわけですから、円安を日本の金融政策で説明することはできないわけです。あくまでもアメリカがインフレ対策として金利を上げているからドル高円安が進んでいるので、日銀の金融政策との関係は薄いということがよくおわかりいただけると思います。

ここまで日米の政策金利の変動について見てきましたが、その元となっているインフレ率についても確認してみましょう。

これはアメリカの過去10年間のCPI(消費者物価指数)の前年比上昇率のグラフです。2012年から2020年にかけては長らく2%前後で安定的に推移していますが、2021年以降は急に上昇し、9%を超えるところまで推移したことがわかります。前年比上昇率9%という数字は40年ぶりの本格インフレとも言われ、このインフレを抑えるためにFRBは段階的に政策金利を上げている状況です。

一方で、日本はどうでしょうか?

食料品の値上げなどが盛んに報道されるため、アメリカと同様に物価が上昇しているイメージはあります。

こちらが日本の過去10年間のCPIの前年比上昇率のグラフです。たしかに2021年以降、物価は上昇していますが、前年比上昇率は3%程度です。アメリカの9%超と比べると日米間の物価上昇率にはかなりの差があると言えます。したがってアメリカが利上げを行う一方で、日本は金融政策を変える状況にはいたらず、そのまま継続しており、その結果としてドル高円安という今の状況が起こっているわけなのです。

円安の終了後、円高はどこまで進むのか?

アメリカの金融政策がドル高円安の原因であり、今後もアメリカの利上げに注視する必要はあるものの、過去の経験から今回の円安は終わりに近い可能性があることを説明しました。ドル円相場は円安が終わると、次は当然円高に進みます。どこまで円高になるのかという点が重要ですが、これも過去の経験を参考に考えてみましょう。

先ほど見たドル円相場の5年MA乖離率のグラフでは、1982年、1998年、2015年、2022年の4回のタイミングでグラフが大きく上昇し、「行き過ぎた円安」が記録されていました。2022年を除く過去3回において、行き過ぎた円安が終わった後、どれくらい円高の方向に転換したのでしょうか。

上のドル円相場のグラフでこの3回のタイミングを見てみると、1982年は約2割、1998年は約3割、2015年は約2割円高方向に進んでいることがわかります。

今回1ドル=150円を記録したとすれば、2割円高に進むと120円、3割進むと105円となります。もちろんこれは過去の経験をもとにした予想にすぎませんが、短期間で急激に2〜3割円高に進む可能性があることは頭に入れておきましょう。円安ということで外貨投資に取り組んでいる方もいると思いますが、そういった方はなおさら円高になることを想定して投資を行いましょう。永遠に続く相場なんてありません。