はじめに
「嫌」には執着し、「心地良さ」はすぐに忘れる
反応の速さでは、かなりの大差をつけ「ネガティブな感情」のほうに軍配が上がりました。では、感情の「持続力」のほうはどうでしょうか。スロースターターだった「ポジティブな感情」のほうが一転して、「ネガティブな感情」を上回るのでしょうか?
まず、データ1 ─ 2を見てください。
これは、データ1 ─ 1のその先、つまり、可愛らしい動物の映像を見てから40分間の感情の変化を示す脳波です。
「満足度」を示す脳波も「快適度」を示す脳波も「満足度」を示す脳波のほうは出続けているものの、「快適度」の脳波のほうは低いレベルにすっかり落ち着いてしまいました。
可愛らしい動物の映像を見たことで感じたはずの「快適さ」はほとんど維持されていないと考えてよいでしょう。
一方のネガティブな感情のほうはどうでしょうか。
データ2 ─ 2は例のグロテスクな映像を見たあと40分間の感情を示す脳波の変化です。
「嫌度」を示す脳波も「ストレス度」を示す脳波もまったく治まる気配がないどころかむしろより強く出ています。
念の為繰り返しますが、「グロテスクな映像」を見たのはたった一度だけです。それなのに、ストレスや嫌な気分は、その後40分間にもわたって続いているのです。ストレスのほうが少し先行しているように見えるのは、「ストレス」が溜まることで「嫌」な気分になっているということでしょう。
つまり、私たちの脳は、「いいこと」に対する「快適さ」について、あっさりと手放してしまう一方で、「嫌なこと」に対する「不快感」や「ストレス」をしつこく抱き続けるという困った傾向があるのです。一日中ずっと上機嫌でいることはなかなか難しいですが、イライラした気持ちのまま一日を過ごしてしまう、ということはよくあるのではないでしょうか。
それも「ポジティブな感情は長続きしないのに、ネガティブな感情は長々と引きずる」という「脳の癖」のせいなのです。
人の興味はうつろいやすい
もう一つ、「ポジティブな感情」の持続力に関する実験の結果も、ご紹介しておきましょう。
データ3は、好きな俳優の新作映画の予告編を見た後の被験者の「興味度」を示す脳波の変化です。
予告編を見たことで高まったと思いきや、あっという間に弱くなっています。
実は、この実験では、ちょっとした仕掛けがあり、予告編を最後まで見せずに途中で止めています。そうすることで「もっと見たい」という渇望感が刺激され、より強い興味をもつようになるのではないかと考えたからです。
ところが結果は意外なものでした。
「興味度」を示す脳波はすぐに弱まってしまったのです。あまりにも弱まったので、20分後に残りの予告編の一部を見てもらいました。途中一旦持ち直したように見えるのは、その効果でしょう。
けれども結局その後も「興味度」を示す脳波は弱まってしまいました。
つまり、人の脳は「興味」も長く維持することができないのです。
テレビ番組では、よく、視聴者の興味を盛り上げるため、さんざん盛り上げたあと肝心の場面の前にCMを挟む手法が取られているようですが、興味を維持させることが狙いなのであれば、脳波を見る限り、もしかしたら、それはあまり効果がないといえるかもしれません。