はじめに

ささいな感情も、丁寧に言葉にする

言葉にして表現しないとわからない。これもコミュニケーションの持つ大きな特徴です。まず、自分の感情をつかむには、ただ黙って感じているだけでなく、言葉にしてみることが必要です。

感情の中には、言葉にしにくいものもあるため、なかなかうまく表現できないというジレンマ(葛藤)もありますが、それでもなお、日頃のコミュニケーションの中で、自分の感情の動きを積極的にすくいとってみることが大事です。

具体的な例で考えてみましょう。

ある女性が男性から映画に誘われました。好意を持っている相手なので、楽しくウキウキした気持ちでした。二人で映画を観た後、食事に行くことになりました。

男性「お腹減ったね。おれ、ハンバーグが食べたいな」
女性「ハンバーグなら、ここから10分ぐらい歩いたところにいいお店があるよ」
男性「すぐそこにある店でいいよ。ハンバーグなんてその辺でも食べられるんだから」
女性「おいしいって、評判のお店なんだけど」
男性「どこだって似たようなもんでしょ。お腹減ったし、すぐそこの店に行こうよ」
女性「……わかった」

女性は気分が下がっていくのを感じていました。せっかくの食事を楽しめないまま、帰宅しました。その翌日、デートに誘われたことを知っている友人と話していたときのことです。

友人「昨日、どうだった? 楽しかった?」
女性「まあまあ、楽しかった」
友人「まあまあ? じゃあ、次のデートの約束した?」
女性「ううん、しなかった」
友人「なんで? ケンカでもしたの?」
女性「してない」
友人「話が盛り上がらなかったとか?」
女性「結構盛り上がった。よくしゃべってくれた。でも、なんとなくまたデートする気になれない」
友人「どうしてデートする気になれないの?」

ここで、女性は友人に気分が下がったときの話をしました。

ハンバーグが食べたいって言うから、おいしい店があるよって言ったのに、強引に「すぐそこの店にしよう」と言われてちょっとカチンときた。別に怒るほどのことじゃないけど、自分の意見を無視されたのは気に食わない。傷ついてはいないけど、残念っていうか、悔しいっていうか。こんなことをいちいち気にする自分にもイライラする……と。

どこにでもありそうなささいな出来事の中にも、様々な感情が生まれ、頭の中がグルグル動いていることがわかるでしょう。

誰かに話さなければ「あの男、ウザい」で終わっていたかもしれませんが、こうして話してみると、「カチンときた」「気に食わない」「残念」「悔しい」「イライラする」など、いろいろな感情を感じていて、がまんすることで感情を抑圧していたことに気づきます。

楽しかったけれど、残念でもある。怒ってはいないけれど、カチンときた。相手も気に食わないけれど、自分にもイライラする……。

矛盾したり、どっちつかずだったり、わかりづらかったり、人間の感情は厄介です。

すっきりととらえづらいかもしれませんが、感情を言葉にしてみると、自分の状態をより細やかに知ることができます。

人は、このようにして様々な感情を感じることができるため、感情表現の言葉が、2000以上も生まれたのでしょう。

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