はじめに
「老後が不安だから家を早く買う」リスク
リスクは以下の3つです。
1. 資産の流動性低下リスク
早く家を買うことを目的とすると、住宅資金の準備が十分でないまま住宅ローン契約を行いがちです。しかし、もし万が一、買った数年後に売る必要が出たらどうなるでしょうか?
不動産という資産の特徴として、流動性が低い点があげられます。簡単に売却できるものではなく、市場環境によっては想定通りの価格がつかず、売れないこともあります。十分な資金準備がないまま住宅ローンを利用すると、特に新築住宅ではキャピタルロスが発生しやすく、流動性が低い資産状態が長くつづく可能性があります。
資産の流動性が低いことで家計に影響が出るのは万が一が起こったときです。転職や失業、病気療養や離婚、要介護状態など人生の万が一はさまざまありますが、そのような時に資産を現金化できず、家計の見通しが急速に悪化するリスクが大きくなります。
2. 生活エリアの固定リスク
家を購入すると、生活エリアが決まります。そのため、転居は容易ではなく、地域の変化という大きなリスクを受けやすくなります。
家を買う前に、いつ買うべきか?ということを不安に思われる方は多いですが、本当に留意すべきは、どこに買うべきか?です。資産形成に適した金融商品が限られているように、資産形成に適した土地も限られています。
人口減少が進む中で、公共施設やインフラ・ライフラインの老朽化、店舗の減少、空き家の増加が進み、購入当時は便利だった場所でも、将来的に住みにくくなる可能性があります。土地の利便性は土地価格にひもづき、土地価格の下落が加速し、キャピタル・ロスリスクが拡大する地域が出てくることも懸念されます。本当にその土地に生活エリアを固定してもいいのか、インフラから人口推移、産業や財政状況などを含めて、さまざまな情報収集をすることが重要です。
万一のときには、住み替えも可能となるファイナンシャルプランを策定できることが理想です。
3. 老後資金の増加リスク
早く家を買うことで、必要な老後資金が増える可能性があります。老後の支出に、主に家の維持・修繕費が上乗せされるためです。
例えば、家を買うと、万が一自然災害などによって家や設備が損害を被ったとき、修繕責任はご自身で負うこととなりますから、火災保険や地震保険への加入のほか、修繕資金の積立が必要となります。また、家や設備は消耗品ではないため、住み続ける中ではメンテナンスや修繕が必要となります。
例えば30代で家を買うと、定年退職の頃、新築で購入していても築30年程度になります。修繕に必要な費用は築年数に比例して大きくなり、定年退職後に修繕費用に頭を悩ませる方は少なくありません。住宅の修繕費用は日頃の収入だけでまかなうことは難しく、退職後の家計において計画的に準備しておくべき、大きな支出項目の1つです。
なお、自治体によっては、国保料が増える可能性もあります。自治体によって実施状況は異なりますが、土地・家屋を持っている人に課せられる資産割を実施しているケースがあり、例えば固定資産税の約40%上乗せとなるケースもあります。
さらに最近では、家の維持・修繕にかかる状況は厳しいものになりつつあります。火災保険料や地震保険料、修繕費用の値上がり、長生きによる修繕回数の増加の影響です。
筆者がこれまでご相談を受けてきた中では、資産価値が上がらないのに大きな費用が必要となるために、賃貸住宅よりも家を買った場合の方が、必要な老後資金額が多くなることが投影されたケースもありました。