お金のことば
言葉(新語・流行語が中心)をテーマにした執筆活動を行っている「新語ウォッチャー」、もり・ひろしが、お金が関係する古今東西の言葉を取り上げます。
勧進相撲とチャリティーライブ、その共通点は何?
お金のことば30:宗教と寄付文化
突然ですが「勧進相撲」(かんじんずもう)と「チャリティーライブ」にはある共通点があります。その共通点とは何でしょうか?「その前に勧進相撲って何?」という方もいらっしゃると思いますが、その話は少しだけお待ちください。ここでは「現在の大相撲のルーツ」とだけ把握しておけば大丈夫です。一方、「勧進相撲もチャリティーライブも、寄付を募るためのイベントでしょ?」と思った方もいることでしょう。こちらは大正解。後ほど詳しく述べますが、勧進相撲の本来の趣旨は募金にありました。もちろんチャリティーライブの目的も募金です。ここで問題にしたいのは、勧進とチャリティーの、さらに根源的な意味のことです。なぜ勧進やチャリティーは、募金を意味するようになったのでしょうか? 両語の語源を探ると、そこには、もうひとつ別の共通点が見えてきます。
「男の沽券にかかわる」の沽券に含まれる経済的な意味
お金のことば29:沽券
アニメ「クレヨンしんちゃん」に「男の沽券(こけん)にかかわるゾ」というエピソードがあります。しんちゃんのパパ・ひろしが、ママ・みさえに「座ってトイレを使うように」と要求され、「男の沽券にかかわる大問題だぁ!」と反論するところから始まるエピソードです。そこでしんちゃんも、すかさず「そうだ股間に毛がある!」とボケる流れでした。これはあくまでアニメの台詞の話ではありますが、確かに幼稚園児にとって沽券という言葉は聞き慣れないものですよね。いや、幼稚園児だけでなく実は大人にとっても、沽券は難しい言葉であるように思います。そもそも「沽」という文字を、沽券以外の言葉で滅多に見かけません。また沽券が「人や組織などの価値や体面」を意味することは知っていても、その由来については知らない人が多いのではないでしょうか。沽券に「券」と書いてあるからには、実際、沽券は「券」なのです。そして本連載が取り扱う話題ですから、その券には、もちろん「経済的な意味」も含まれています。今回は「沽券」という言葉の成り立ちを探りましょう。
「青田買い」と「青田刈り」、混乱はいつ始まった?
お金のことば28:青田買い・青田刈り
昨今の深刻な人手不足を背景に、企業の間では学生の「青田買い」傾向が強まっているようですね。青田買い――すなわち採用活動を行う企業が、早いうちから学生を確保する行動――が激しくなったというのです。ところで以上の青田買いについて「青田刈り」と表現している文章を目にしたことがありませんか? これは言葉を題材にするコラムでは頻出する話題のひとつ。「このような文脈で、青田買いではなく青田刈りを使うのは誤り」とする主張を、どこかの記事で見た人もいるかも知れませんね。今回は、企業の採用活動で登場する青田買いと青田刈りについて、その違いを徹底的に解説しましょう。「もう言葉の意味も、使い方も知っているよ」とおっしゃる方には、加えてこんな問いも投げかけてみたいと思います。青田買いと青田刈りの混用・混同は、一体いつから続いているのでしょうか?
お駄賃の駄の字に「お馬さん」がいる理由
お金のことば27:駄(だ)
お手伝いをした子どもに対して「お駄賃」をあげることがありますね。改めて駄賃の意味を復習すると「お手伝いのお礼として渡す、ちょっとしたお金や品物」を意味します。この駄賃のうち「賃」の方は、皆さんもよくご存知の通り、金銭を意味する漢字です。ではもう一方の「駄」はどういう意味なのでしょうか? 駄作、駄目などの熟語が存在することから、駄=粗悪・つまらないなどのイメージを持っている人も多いことでしょう。しかしその認識は、駄作や駄目については正しいのですが、駄賃についてはやや正確さに欠けます。さて駄賃の駄とは、一体どういう意味なのでしょうか? 理由を読み解く鍵は、駄の字に潜む「お馬さん」が握っています。
「地獄の沙汰も金次第」の「沙汰」の語源にある経済的話題
お金のことば26:沙汰
「この世の中、お金さえあれば何事も思うがままになる」。そういう意味のことわざに「地獄の沙汰(さた)も金次第」があります。地獄で受ける裁判も金次第で有利になるのだから、この世だってそうだ――との主張ですね。ここで皆さんに質問です。「沙汰」とは何でしょうか?「地獄の沙汰というぐらいだから、沙汰は裁判の意味じゃないの?」と思われるかもしれません。もちろんそれはそれで正解なのですが、ここで問いたいのは「沙汰はどうして裁判という意味なのか?」ということです。そしてもうひとつ、付け加えて問いたいこともあります。常軌を逸した行いを意味する「狂気の沙汰」や、音信がないことを意味する「ご無沙汰」といった成句には、どうして「沙汰」が登場するのでしょうか。これらの成句と裁判はあまり関係ないようにも思えます。今回は、謎の言葉「沙汰」について掘り下げましょう。この記事のテーマは「お金の言葉」。実は沙汰の語源に「経済的な話題」が隠されています。
「アベノミクス」から約5年半、最近の○○ノミクス事情
お金のことば25:○○ノミクス
安倍首相の経済政策「アベノミクス」が話題になってから、約5年半の月日が流れました。さらに言えば、この言葉の誕生からは10年以上もの月日が経ったことになります(実は、第一次安倍内閣が発足した2006年にはこの言葉は誕生していました)。ちなみに同語の引用元は、米国第40代大統領であるレーガンによる経済政策「レーガノミクス」(Reaganomics)とされています。さてこの「○○ノミクス」という語形は、誰でも簡単に応用しやすいこともあり、多くの派生的な言葉を誕生させています。そもそもレーガノミクス以前にもニクソノミクス(Nixonomics、米国第37代大統領のニクソンの経済政策)という言葉がありましたし、アベノミクス以降もウーマノミクス(女性の社会進出による経済活性化)などの言葉が登場しました。そこで今回は「ここ最近の○○ノミクス事情」について分析してみたいと思います。アベノミクスが話題になった当時の応用例と、現在の応用例を比較してみたいと思います。
ザッカーバーグが載ってない!?広辞苑「人名」掲載基準の謎
お金のことば24:広辞苑・第七版(後編)
『広辞苑 第七版』(2018年1月発売開始)で新たに登場した経済ワードを紹介する記事の後編です。前編では、投資の言葉(外国為替証拠金取引)、経済史の言葉(サブプライムローン)、CSRの言葉(三方良し)を紹介しましたが、この他にどんな経済ワードが新登場したのでしょうか?
最新版『広辞苑』から眺める、最近10年の経済事情
お金のことば23:広辞苑第七版(前編)
朝ドラ、上から目線、がっつり、小悪魔、加齢臭、婚活、自撮り、無茶振り、アプリ、エコバッグ、サプライズ、スマホ、デトックス、パワースポット、リスペクト、レジェンド、マタニティーハラスメント――さて、これらの言葉に共通するポイントは何でしょうか?今年1月13日、岩波書店は『広辞苑』の最新版となる第七版の発売を開始しました。前述の言葉は、その広辞苑・第七版で新たに採録された項目を一部抜粋したものです。後ほど詳しく述べますが、広辞苑の新版が登場するのは「ほぼ10年に一度」のこと。ということは、以上で登場したキーワードは、ここ10年の間に世間に浸透したキーワードである(そのように編集部が判断したキーワードである)とも言えるのです。さて、当然のことながら広辞苑には「経済用語」も載っています。ということは、第七版で新しく登場した経済用語を観察することによって、おおよそ最近10年間の経済動向を振り返ることも可能かもしれません。今回は「広辞苑・第七版で新登場した経済用語」を特集しましょう。本稿はその前編です。
ネット銀行だけじゃない!銀行ネット支店のおもしろ命名
お金のことば22:銀行のネット支店名
「ネット専業銀行の支店名が面白い」という話は、ネットの経済系メディアでよく見かける話題のひとつです。例えば住信SBIネット銀行の場合は、イチゴ支店やブドウ支店などの果物シリーズ。セブン銀行の場合は、マーガレット支店やフリージア支店などの花シリーズ。楽天銀行の場合は、ジャズ支店やロック支店などの音楽ジャンルシリーズを採用しています。このような支店名が必要とされるのには大きな理由があるのだそう。銀行同士でお金のやり取りをするシステム(全銀システム=全国銀行データ通信システム)の仕様上、たとえ実際の支店を持たない銀行であっても「支店名」が必要となるからです。さて以上はあくまでネット「専業」銀行の話でしたが、それとは別に「既存の銀行が通常の支店とは別にネット支店を設ける」事例も増えています。そのようにして誕生したネット支店――その中でも、とりわけ地方銀行(地銀・第二地銀)のネット支店――の名称にも、実は面白いネーミングがたくさんあるのです。
日本のビジネス界に伝わる商道徳の言葉~明治以降のCSR探訪~
お金のことば21:商道徳の言葉(後編)
日本のビジネス界に伝わる「商道徳」の言葉を、前後編の2回に分けて紹介しています。前編では江戸時代の言葉を紹介しましたが、後編の今回は明治以降の言葉を紹介することにしましょう。CSR(企業の社会的責任)の概念が伝わる前の日本には、一体どのような商道徳が存在したのでしょうか?
日本のビジネス界に伝わる商道徳の言葉~江戸時代のCSR探訪~
お金のことば20:商道徳の言葉(前編)
近年、ビジネスの世界でよく聞くようになったCSR。corporate social responsibilityを略した言葉で、日本語では「企業の社会的責任」と呼ばれています。企業は従来的な経済的責任や法的責任のみならず、環境保護・人権尊重・消費者保護・労働者保護などの「社会的責任」もまっとうすべき――とする考え方です。日本でこの考え方が広く知られるようになったのは2003年のこと。この年にいくつかの大手企業が、CSRの專門部署を相次いで設立したことがきっかけでした。そこには当時、企業の不祥事が相次いでいたことが背景にあります(雪印牛肉偽装事件など)。関係者の間では2003年を「CSR元年」と呼ぶ人もいます。しかし日本企業は、なにも2003年になるまで社会的責任を無視していたわけではありません。日本の商業界には「和製CSR」ともいえる概念、言い換えると「商道徳」が古くから伝わっていました。今回は、日本のビジネス界に伝わる「商道徳の言葉」を、前後編に分けて紹介しましょう。前編の今回は、江戸時代の言葉を取り上げます。
中央銀行がデジタル通貨を導入?命名に隠された意図
お金のことば19:官製デジタル通貨
コインチェック社における仮想通貨NEMの流出騒動など、ここ最近の経済界・金融界では、仮想通貨の話題に事欠かない状況が続いています。そんななか世界各国から聞こえてくるのは、少し乱暴に言うならば「中央銀行版のビットコイン」を検討する動きです。つまり国家が発行し、必要ならば法的な裏付けも行い、ブロックチェーンなどの最新技術も導入する新しいデジタル通貨――ここでは便宜的に「官製デジタル通貨」と呼びましょう――を模索する動きがあるのです。なかには、そのような新通貨の運用を始めた国すら存在するほどです。この記事で注目したいのは、そんな官製デジタル通貨の「命名」に関する事情です。世界中で官製デジタル通貨の命名が行われているのですが――例えばロシアの「クリプトルーブル」やベネズエラの「ペトロ」など――その命名にはいくつかのパターンがあるのです。しかもその命名パターンの中には、新通貨の特徴・背景を如実に示すものも存在します。今回は、官製デジタル通貨の命名事情を分析してみましょう。
「ここは兵隊にしよう!」どういう意味?
お金のことば18:割り勘(後編)
各国語で「割り勘」を意味する言葉を紹介する記事の後編です。前編では外国語の割り勘を紹介しましたが、今回は日本語の割り勘について紹介しましょう。前編で紹介した通り、外国語の割り勘表現には「オランダ式」(英語のDutch treat)や「アメリカ式」(南米スペイン語のa la Americana)といった具合に「他地域を引き合いに出す」表現がいくつかありました。実はこのような「何かを引き合いに出す表現」は、日本語の割り勘表現にも登場します。さて日本語にはどんな割り勘表現があるのでしょうか。
「割り勘」でケチ呼ばわりされる人々
お金のことば17:割り勘(前編)
いよいよ新年度に突入しましたね。歓迎会など、飲み会の機会も増える季節となりました。そんな飲み会の終盤で、参加者同士が「割り勘」の計算をしている風景もよく見かけます。さて皆さんは、英語で割り勘のことをどう表現するのか、ご存知でしょうか? Dutch treat(ダッチ・トリート)と表現するのだそうです。直訳で「オランダ人のおごり」を意味します。ここで注目したいのはオランダ人の位置づけ。どうやら英語話者には「オランダ人はケチだ」というイメージが根付いており、そのイメージがDutch treatなどの表現に反映されている――というのです。実際のオランダ人にとっては、不本意極まりない扱いかもしれませんね。実は世界の割り勘表現の中には、Dutch treatのように「ケチなどのイメージを持つ誰か」を引き合いに出す表現がたくさん存在します。そこで今回は、世界で割り勘がどう呼ばれているのか、そこではどんな人々が引き合いに出されているのか紹介してみます。前後編で割り勘表現を紹介する記事の前編です。
経済と理財の覇権争い、「経済」に軍配が上がったワケ
お金のことば16:理財(後編)
財務省理財局を入り口に「理財」という言葉の背景を探る記事の後編です。前編では、理財の「意味」が「金銭・財産をうまく運用すること」だと紹介しました。後編の今回は理財の歴史について分析してみましょう。実はこの言葉。もともとは中国の古典に登場する古い言葉であるだけでなく、明治から大正の一時期に「経済」という言葉と覇権を争ったこともあるという、非常に面白い歴史を持っているのです。
森友問題に登場する財務省理財局、「理財」の意味は?
お金のことば15:理財(前編)
森友学園問題に関連して、マスメディアでは財務省理財局という部署名をよく見かけます。この部署名にある「理財」という言葉は、一般には馴染みが薄いようにも思われます。皆さんは、理財の意味をご存知でしょうか。理財という言葉の意味と歴史について、前後編の2回に分けて分析してみましょう。前編の今回取り上げるのは、理財の「意味」。日常生活でこの言葉を使えるレベルを目指して、意味の把握に挑戦してみます。
通貨コードが映し出す「経済の現代史」
お金のことば14:通貨コード(後編)
JPY(日本円)やUSD(米国ドル)など、アルファベット3文字で構成される通貨コード。その仕組みと変遷を分析する記事を、前後編の2回に分けてお送りしております。後編の今回は、通貨コードの「変遷」について紹介しましょう。面白いことに、通貨コードの変遷を辿ることは国家・経済・通貨などの「現代史」を辿ることと同義なのです。ここで前編で紹介した、通貨コードのフォーマット(記述方法)を簡単に復習しましょう。第一に通貨コードは原則「英字2文字の国名」と「英字1文字の通貨名」を組み合わせた形です(以下、ルール1と呼ぶ)。例えばJPYは日本を意味するJPと、円を意味するYの組み合わせ、といった具合です。第二に、複数の国で共通の通貨を用いる場合は、例外的に「X」と「英字2文字」を組み合わせます(同ルール2)。このような通貨コードには、例えばアフリカ諸国で使用されるXAF(CFAフラン)などがあります。ひとまずこの2つのルールだけを把握しておけば、以降の話題が理解できると思います。
円はJPY、ドルはUSD、ビットコインは?通貨コードの仕組み
お金のことば13:通貨コード(前編)
普段から為替相場の情報をご覧になっている人は、USD/JPYとか、EUR/USDとか、GBP/USDといった表記も見慣れていることでしょう。それぞれ円/ドル、ユーロ/ドル、ポンド/ドルの省略表記ですね。つまりこれらは為替レートを示しているわけです。このようなアルファベット3文字による通貨表記は、世界中で利用されています。ちなみにUSDなどの略称をGoogleに入力すると、簡単に為替レートを表示できることをご存知でしょうか。例えばGoogleの検索窓に1 USD(注)と入力すると、その日の為替レート――例えば1ドル=105円といった情報――が表示されるのです(注:より確実には USD to JPY とするとよい)。さて、このように国際的に使用されているJPY・USD・EUR・GBPなどの略称なのですが、いったい誰が、どういうルールで決めているのでしょうか? 今回は、お金の略称――すなわち通貨コード――について掘り下げてみます。前編の今回は、通貨コードの「仕組み」と「その仕組みが及ぼした意外な影響」について紹介します。