はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

転職で年収が420万円から640万円に大きくアップしました。今までなかなか貯蓄できない状況でしたが、これを機に老後も考えた資産運用をしたいと思っております。現状は下記の通りです。


職業:ITコンサルタント(前職はSE)
年収:640万円(基本給592万円、手当48万円)
住宅:賃貸10万円
貯金:350万円
個人年金:月13,500円(65歳満期で600万円)
医療保険:月2,800円(掛け捨て)
新しい会社では「持株会」と「確定拠出年金」が利用でき、下記の割合まで運用できると説明を受けています。
【持ち株会】月々基本給の10%まで(1口1,000円あたり50円の利息)
【確定拠出年金】月々基本給の6%まで


現在は独身ですが、将来的に結婚したいと考えている女性はいます。ただし、子供をつくることは考えていません。資産運用は老後を目的として考えていますが、それまでに住宅を購入するかもしれないので、老後にならないと利用できない資産ばかりではマズイとも思っています。会社で用意されている持株会や確定拠出年金は有益だと感じていますが、資産運用はまったくの素人のため、何に何割出資したらよいのか、ほかにもよいサービスがあるのか、まったくわからない状況なので、アドバイスをいただきたく存じます。
(30代後半 独身 男性)


野瀬: 「何に投資するべきか」「いくら投資に回すべきか」という質問はよく受けるのですが、これはその人の置かれた現在の状況と、目的によります。世の中にはこの2つを総合的に考えて「リスクを取るべき人」と、「リスクを取らなくてもよい人」に分類されるからです。

リスクを取るべき人は積極的に投資をする必要がありますが、リスクを取る必要がない人(具体的にはもうすでに十分な金融資産を持っている人など)は極端な話、投資をしなくても大丈夫です。

ただ、世の中たくさんの金融資産を持っており、もうお金を増やす必要がない人ほど、「投資商品を売る人」がたくさん寄ってくるというパラドックスがあるので気を付ける必要がありますね。

30代後半で貯金350万は少ない?

まず、質問者の方の資産の状況から考えてみましょう。貯金が350万円とありますが、個人年金を考えても、これは今の年齢で、かつ持家がない状態では少し心もとない水準です。今と比べて前職の給料が少なかったことと、後述しますように家賃が高いことが原因と考えられますが、このペースでいくと老後資金が少し心細いので、ある程度の投資は必要になります。

次に現在の収支面ですが、640万円が額面だとすると手取りは500万円ちょっとぐらいでしょうか。お給料は同世代から考えて、高い水準です。ただ、今までの家賃が少し高かったですね。

私の理論では家賃の適正水準は「手取給与の4分の1」です。都心に住む必要がある場合は3分の1になるかもしれませんが、それでも、従来の10万円というのは少し高いと思います。高くなった今の所得水準では適正ラインですが、もう少し低い家賃の家に住んでいれば、もう少し貯金が貯まっていたかもしれません。

将来を見越したマネープランを

またこの所得水準ですが、このまま続くかどうかが不明です。コンサルタントの種類にもよりますが、コンサルタントはその仕事の性質上、実績に応じてお給料が増減すると思います。そして、ひょっとして将来的には独立するかもしれません。そうなると所得はさらに不安定になるでしょう。このあたり、投資である程度安定した収入を補いたいですね。

最後に結婚です。結婚相手が働くのか働かないかにもよりますが、お子さんの予定はないとのことなので、おそらく働かれるのだと思います。仮に収入が手取りで200万円だとしたら、その分世帯収入は増えます。

たとえば、今のお相手が35歳と想定すると、だいたい5,000万円ぐらい積み上がる計算になります。また、お子さんがいないというシミュレーションなので、その養育費(学費含む)の3,000万円も理論上は不要となります。

資産の4~5割を投資に回す

これらの現状を踏まえての私の見解は、「少しリスクを取った上で投資をする必要がある」です。つまり、貯金するだけではなく投資が必要です。ですから、最終的には全資産のうち4~5割程度を投資に、残りを現預金・年金、及び不動産用の資金に回すとよいでしょう。

確かに前述の「資産の状況」「現在の収支面」「結婚」を考えると、定年時に4,500万円ほど積みあがるシミュレーションになります。年金の存在を考えると、最低限の老後資金は確保できます(基本的に子どもがいない夫婦は生活が派手になりがちなので、生活費は高めで計算しました)。

しかし、コンサルという収入が増減する仕事、将来独立する可能性、また結婚のお相手やそのご両親がどうしても子どもを欲しがる可能性などを考えますと、やはりもう少し資産に余裕が欲しいところです。

(1)不動産

今は相場が高騰しすぎているのと、勤続年数が足りないので避けたほうがよいですが、ご自身の年収も高いので、今後数年間待って相場が落ち着いたときに、2人で住めるような中古マンションの購入を考えてもよいと思います。現状、金利が低いのも追い風です。

もちろん、これは将来的に「貸せる」ような物件を買うことで老後の安定収入を目指すものですので、投資家目線でしっかり見定めてください。最悪借り手がつかなくても「自分で住めばよい」という最後の手段がある以上、勝ちやすい投資だと思います。

(2)持株会

どのような会社にお勤めなのかは分かりませんが、私は個人的には持株会はあまりおすすめしません。なぜなら、持株会は会社の業績がよければ儲かりますが、悪ければ当然損をするわけで、これは言い換えると「給料も投資も同じ船に乗ってしまう」状態だからです。いい時はいいですが、悪い時は目も当てられなくなりますので、老後資金を目的としている質問者の方にはあまり向かないと思います。

(3)確定拠出年金

持株会よりは、むしろこちらを有効利用したほうがよいと思います。理由は簡単で、拠出した金額を所得税の計算上控除できるからです。ただ、老後まで使えないものばかりだと困るとのことですので、以下の方法も検討しましょう。

(4)個別株・投資信託

質問者の方の場合「個別株」という方法もありますが、まだ投資の初心者とのことですので、個別株よりもある程度パッケージ化された「投資信託」のほうがよいでしょう。もちろん確定拠出年金と異なり、投資信託をいくら買っても、所得税の計算上差し引くことはできません点にはご留意を。

また、今は少し相場が過熱している気配がするので、当面は月1~2万円程度をコツコツと。日本以外の株や債券も含んだバランス型の投資信託を購入して、投資の世界に「慣れていく」のがよいでしょう。

そして、「投資をしよう!」と心に決めた人がよくやる大失敗が、いきなり100万円ぐらいのお金をよく分からない個別株やREITなどにドカンとぶち込んでしまう行為です(ちなみに投資を始めた時の私です)。ご自身の知識、経験及び、今の市況を考えて1~2万円の積立投信あたりが一番無難だと思います。

(5)個人年金

こちらも確定拠出年金とは異なり、所得税の計算で一部しか控除することができないので、税務上は不利です。ただし、寄せられた情報によると、毎月積立をおこなえば満期時に600万円もらえることは確定しているようなので、月13,500円程度であれば老後資金のリスクヘッジとして続けておくとよいでしょう。

結婚相手と一緒に住んでみるのも手

最後に1つ。もう結婚を考えている方がいらっしゃるのであれば、正直、一緒に住んだほうがいいと思います。

理由は2つあって、1つは一緒に住んだほうがお互いの性格や生活スタイルがよく見えるようになり、結婚に対する過度の期待がなくなるという点。

もう1つは単純に、一緒に住んだほうが経済的に効率がいいからです。家賃はもちろん、水道光熱費、食費など考えると「どうせ将来一緒になる」ことが決まっている2人であれば、1日でも早く一緒にくらしたほうがお金は貯まります。

家賃は10万円とお伺いしており、比較的広めの物件だと推察されますので、「投資のためのお金を貯める」という観点からも試してみてはいかがでしょうか。

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