はじめに

何もしなければ教育費と老後資金で家計は破綻する

ソニー生命のライフプランニングをベースとしたシミュレーションシステムは、これらの情報を入力すると、オリジナルのご家族の年表をつくります。夫と妻がそれぞれ何歳のときに、子どもたちは何歳になっているかがひと目でわかるようになっています。家計簿のようなキャッシュフロー表も作成でき、社会保険料の改定や税金が自動計算されます。

世帯収入の推移を見ると、結婚してから徐々に上がって、産休育休の期間は少し下がります。妻の職場復帰後はしばらく時短なので少なくなりますが、数年で元に戻り、上昇していきます。両親から500万円の資金援助を受けた住宅購入時と、夫が800万円の退職金を受け取った際に一時的に上昇して、その後は年金収入のみになります。

収支のバランスを見ると、結婚当初は300万円の預金もあるのでプラスですが、住宅購入時に頭金や諸経費として入れてしまったため、マイナスになってしまいます。さらに教育費がかさむ時期にも大幅な赤字となり、夫の退職金で一時的にプラスに復帰しますが、70歳ごろからまたマイナスになり赤字幅がどんどん広がっていきます。

サラリーマンは2度財政破綻するとも言われますが、まさに教育資金と老後資金で家計が破綻しているのがわかります。最終的には2200万円ぐらいショートしてる状態ですが、これは決して特殊なケースではなく、ありがちなパターンです。

こうした家計が、iDeCoに加入することで改善できるでしょうか。支出も収入もまったく変えてない状態で、夫婦それぞれiDeCoに加入したとして試算しましょう。

会社員である夫は月額掛金の上限が2万3000円なので上限額まで加入し、利回り3%で運用します。受け取りは65歳から74歳までの10年間で、年間135万円ずつを受け取ります。妻は夫の半額となる年間15万の掛金で、将来は年90万円を10年間受け取っていきます。

iDeCoに加入すれば所得控除を受けられるので現役時代の税額が下がり、なおかつ老後資金も増えることが期待されます。実際にiDeCoに加入した場合とそうでない場合のキャッシュフローを比較してみると、確かに老後の家計は改善され、2200万円の赤字が1800万円ぐらいまで小さくなっています。

しかし、現役時代では掛金の負担が節税メリットを大きく上回り、家計の余裕資金であるフリーキャッシュフローが非常に少なくなっています。最適な掛金の調整ができていないままiDeCoに加入すると、老後はよくても現役時代の家計が逼迫する事態が考えられるのです。

iDeCoだけでは家計の健全化は不可能

iDeCoは大変有利な制度ではありますが、加入する前にまずは家計の現状を見直したほうがよさそうです。そこで、大きな支出を見直してみましょう。マンションの購入価格と借入金利はそのままで、返済年数を25年から35年に変更してみました。

iDeCoに加入する前の当初の状態と比較すると、現役時代の余裕資金であるフリーキャッシュフローが増えています。返済年数を伸ばしたことでローンの支払総額自体は200万円も増えてしまうのですが、現実の家計には余裕ができている状態です。教育資金がかさむ時期にも赤字幅が小さくなっています。

ただし、老後はほとんど変わっておらず、2200万円の赤字が出ている状況は同じです。住宅ローンの返済年数を伸ばすのは、現役時代の家計に余裕を持たせる効果はありますが、老後の家計にはあまり影響しないということになります。

だったらさらに、住宅ローンの頭金の額も変えてみましょう。今回この夫婦は両親から500万円の援助を受けているので、両親からは「できるだけ頭金を入れて借り入れ額を少なく」とか「繰り上げ返済をがんばりなさい」といったアドバイスがあったかもしれません。

実際、親世代が若い頃は、住宅ローンの金利は6%や8%といった高金利だったので、その前提であればそれが正解です。

しかし、それが今も通用するかというと、そうとは限りません。ここまで金利が低くなってくると、頭金を増やしたり繰り上げ返済を頑張っても、それで家計がラクになるというわけでもないのです。

そこで、援助してもらった500万円はプールしておいて、頭金は手持ち資金の300万に減額して試算してみます。

この変更で、借り入れ額は3700万から4200万に増えてしまいます。当初設定の3700万円を25年で返済する場合よりも、300万円多く支払うことになります。「さすがに300万円も支払額が増えると、将来の家計簿は悲惨なことになる」と思う方もいるでしょうが、実際は返済年数を伸ばしただけのケースよりもさらに家計を改善できるのです。老後の状況はまだそれほど変わっていませんが、40代から50代の教育費負担が大きい時期も500万円前後の貯蓄を維持できるようになりました。資金繰りがいかに重要かがおわかりいただけるでしょう。

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