はじめに

自分はいつまで働けるか=目に見えない知的資産のマネジメント

わたしたちが社会に出た頃は、個人よりも組織が強い時代でした。もちろん今もそうなのですが、よりその傾向が顕著でした。大きく優れた組織に帰属し、忠誠を誓い、その中で階段を上ることで収入も増えていくとされた世代です。定年になると退職金を手切れ金として組織の外に出されますが、国が年金で生活を保障してくれるという前提は既に崩れています。

知的資産とは貸借対照表の純資産を増やす個人の能力であると定義しました。現役時代の知的資産は主として働くことによって純資産を増やす能力です。現役時代のそれは組織の中にあってこそポテンシャルを発揮する能力なので、定年になって組織の外に出されると激減してしまうのです。ですから、定年を後ろ倒しにするのが直接的な対策ということになります。

過去は60歳定年の後20年前後で平均寿命がきたので、“余生”という感じだったのですが、人生100年時代となると、余生と呼ぶにはあまりにも長い期間を組織外で生きていかねばならなくなります。そのため政府は企業に対して65歳定年の努力義務を課したり、労働市場を改変したりするなどして定年年齢を後ろ倒しにしようとしています。

現時点で見えているのは65歳定年ですが、現在アラフィフの世代がその年齢になる頃には70歳定年が一般的となっている可能性すらあると思います。3章で詳しくお話しますが年金の受給を70歳まで繰り下げることで支給される年金の額は42%増加し、それが死亡するまで続きます。

そして、知的資産は幸福になるための選択肢の豊富さであるとも言いました。純資産を減らさない選択肢を選びながら自分を幸福にする能力とも言えます。従来のように働くことでお金を稼ぐ能力は半減するかもしれませんが、自分を幸福にする能力としての知的資産は人間的な成熟によっても増えていくのです。

人生100年時代のわたしたちは定年後も意外と長く生きるのです。今働いている組織内で得たキャリアや子育てが終わってもまだ道半ばなのですよ。定年がゴールであるという認識を持っているのだとしたら、それをアップデートする必要があります。

もし定年がゴールだとしたら、その後40年は老後資金を少しずつ切り崩し、その減少に怯えながら生きていくことになるからです。いくら多くの貯金があったとしても、それは老後の貧困ではないかと思うのです。

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