はじめに
「私がずっと望んでいたのは小説を書くことで、それ以外にはないという確信がありました」
「とても良い人生のために」
J・K・ローリング (「ハリー・ポッターシリーズ」作者)
女性が自分の力だけで大富豪になるのはとても難しいことのようです。億万長者ランキングに結婚、遺産相続、離婚(巨額の慰謝料)以外の自力でランクインする女性の比率はとても低いと言われていますが、その中の1人が世界中で5億部以上を出版、史上最も売れたシリーズ作品と言われる「ハリー・ポッターシリーズ」の作者J・K・ローリングです。
ローリングは子ども時代から物語を書くことが大好きで、大学も文学方面に進みたかったものの、両親の希望によりエクセター大学でフランス語と古典を学んでいます。しかし、社会に出てからも物語を書くことへの興味が尽きることはなく、実際に小説も書いていますが、いずれも日の目を見ることはありませんでした。
その間、最愛の母親を亡くし、短い結婚に敗れてシングルマザーとなり、仕事も失い、生活保護を受けるという貧しい生活の中、ローリングは「自殺を考える」ほどのうつ病にも悩まされます。たいていの人ならこれほどの厳しい生活を強いられれば、生きていくためにすべてを諦めたくなるものですが、ローリングは頭の中にはっきりと浮かんでいた「ハリーと魔法学校の物語」を書き続けることだけは決して止めようとはしませんでした。
「壮大な失敗」をして、何者にもなれなかったからこそ、ローリングには「自分の本領だと信じていた唯一の分野」、つまり物語を書くことで成功しようという強い決意がありました。1995年、30歳の時に完成した原稿はあまりに長編すぎて12の出版社から出版を断られますが、何とかブルームズベリー出版社との契約にこぎ着け、1997年に出版されます。最初のハードカバー版の刷り部数はわずか500部でしたが、評判が評判を呼び、やがて世界的ベストセラーとなり、映画も大ヒットします。過酷な状況にありながら、「自分の本領」を信じ、物語の完成に挑み続けたことが成功をもたらすことになりました。
ここがポイント
苦しいからと脇道にそれることなく、得意なこと好きなことをやり続けろ。
「5つの製品に集中するとしたらどれを選ぶ?ほかは全部やめてしまえ。あれもこれもではマイクロソフトになってしまう。そんなものにかかわっていたら、リーズナブルだけどすごくはない製品しか出せなくなってしまう」
「スティーブ・ジョブズ」Ⅱ
スティーブ・ジョブズ (アップル創業者)
アップルの創業者スティーブ・ジョブズの特徴の1つは、 「選択と集中」であり、「自分たちが本当に使いたいものだけをつくる」という考え方です。
1997年、倒産の危機に瀕していたアップルに復帰、暫定CEОに就任したジョブズが最初にやったのは、40種類もの製品を4つに絞り込むことでした。製品の種類は多く、それぞれに数多くのモデルがあるものの、マーケットリーダーと呼べるようなものはありませんでした。
ジョブズは増えすぎた製品ラインナップを徹底して絞り込んだうえで、その一つひとつにかろうじて残っていた一流のチームを集中させることで製品開発を進め、iМac、そしてiPodなどの大ヒット製品をつくり上げていきます。
ジョブズが大切にしていたのは「フォーカスとはノーと言うことである」です。企業というのは大きくなるにつれて、どうしても「あれもこれも」と手を出す傾向がありますが、その理由のほとんどは「他社がやっている」「売れている」といった曖昧なものです。そんなことを続けていると 製品の数は増え、売上げも多少は増えるものの、「リーズナブルだけどすごくはない製品しか出せなくなってしまう」というのがジョブズの考え方でした。
大切なのは自分たちが心の底から「使いたい」と思う、「すぐれた製品」をつくることであり、「すぐれていない」と思ったら、それにはさわらないことこそがすごい製品を生み出し、すごい企業になる秘訣だとジョブズは考えていました。
亡くなる少し前、ジョブズは訪ねてきたラリー・ペイジ(グーグル創業者)に「5つの製品に集中するとしたらどれを選ぶ? ほかは全部やめてしまえ」とアドバイスしますが、それこそがすごい製品、すごい企業をつくる最も大切な考え方だったのです。
ここがポイント
「集中」こそがすごい製品をつくり、すごい企業をつくり上げる。