はじめに

「貯金が苦手なら保険で投資」の勘違い

契約した保険商品が、どうも思っていたものと違うような気がする、とおっしゃってご相談に来られた川口さん。そろそろ50歳の大台となり、お一人様なので老後が不安、お金を貯めたいと言います。

とはいえ、投資はなんとなく怖いし、知識もないので誰かにお任せできるのであればその方がいいし、面倒なことは避けたいとも考えています。

そんな中、お勧めされたのが変額保険と言われる商品でした。月々保険料を納めると、そのお金が運用され、65歳になったら増えたお金が受け取れるそうです。万が一亡くなったら、保険としてお金がおりるので損はないと考えました。しかも払込保険料は、年末調整の時に申請すると税金が戻るし、受け取る際も税金が得すると言われ、ものすごく良い商品だと考えました。

決め手は、営業マンに言われた一言、「貯蓄が苦手な人でも、保険なら貯めやすいですよ」でした。落ち着いて考えると、なぜ保険なら貯めやすいのかよく分からないけれど、その時は魔法の言葉のように、これで将来は安泰と思ったそうです。

そこまでして始めた商品でしたが、1年経過してふと書類をみたら、10年以内に解約すると必ずマイナスになること、仮に運用実績が0%であれば、満期時のお金は払い込んだ金額を下回るという説明が書いてあり疑問を抱いたそうです。

変額保険は、内蔵されている投資信託で運用が行われます。保険なので、万が一亡くなった際に払込金額分、あるいは基本保険金が保証されるので、安心感があり人気です。しかし当然ながら、その保険としての機能にコストがかかります。

川口さんは、万が一亡くなっても経済的に困る方はいないとのことですから、死亡保障は不要です。なんとなく、保険という言葉から元本保証のイメージを持たれていましたが、運用がうまくいかなければ、満期保険金が払込保険料を下回ることもあります。

保険料が生命保険料控除になることをメリットと聞いていたので、実際どのくらいメリットがあるのかお示ししました。川口さんは月2万円の積み立てをしているのですが、そのうち控除の対象となるのは4万円です。従って年収600万円の川口さんであれば、税のメリットは4,000円です。さらに住民税の控除対象額は28,000円なので、翌年の税のメリットは2,800円となります。

同じ老後資金のために運用するのであれば、iDeCoの方が税のメリットは大きくなります。所得税も住民税も掛金全額が控除ですから、年間24万円の掛金に対する税のメリットは、所得税が24,000円、住民税が24,000円、合計48,000となります。

中途換金についてはどうでしょうか?

iDeCoは60歳まで引き出しはできませんから、変額保険の方がメリットはありますが、10年以内の中途換金では、手数料が発生するため払い込んだ金額を下回ります。例えばNISAであれば、いつでも売却をすることが可能です。払い出せる金額は運用次第ですが、変額保険のように、解約時の手数料がありませんから、増えていれば増えた分だけ利益を得ます。

変額保険は受け取りの際に、一時所得となる点もメリットとして伝えられていました。一時所得は利益から50万円の特別控除を差し引き、さらに2分の1をした後総合課税となりますので、確かに税は優遇されていると言えます。しかしiDeCoであれば、退職所得控除や公的年金等控除が使えますし、NISAは非課税ですから、どんなに利益が出ても一切税金がかかりません。特に来年から始まる予定の新NISAは、期間をもうけず非課税ですから、やはり「変額保険だからお金が貯まる」というのは強調しすぎた営業トークといえるでしょう。

常に比較検討を

今回は3つの事例を紹介しましたが、お金を貯める手段はいろいろあるので、いくつかの方法を比較検討することを心がけましょう。金融機関から商品を提案される際は、「国の制度であるiDeCoやNISAではなく、なぜその商品なのか?」と問いかけをしてみるのもいいでしょう。

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