はじめに

日本が金利上昇なら円高、金利低下なら円安は本当か?

ところで、1つ気を付けなければならないと思われるのは、日本の金利が上昇したら円高、逆に金利低下なら円安という反応でいいのかということです。言葉の説明だけなら、金利と為替の関係は正しそうですが、実は3月の会合の際は日本の金利が低下する中で、為替相場は円高(米ドル安)へ向かうところとなったのでした。

この3月の日銀会合の当時、米国ではある銀行の経営破綻をきっかけに、金融システム不安が急浮上し、それを受けて金利が急低下に向かいました。もともと日本の10年債利回りは、米10年債利回りに連動する傾向があります。最近こそ、日銀が10年債利回りに上限を設定しているため、米10年債利回りの上昇への連動は限られますが、低下局面では連動が強まります(図表2参照)。

要するに、3月の日銀会合後の日本の10年債利回り低下は、日銀がYCC見直しを見送ったことへの反応以上に、米金利低下に連れた面が大きかったでしょう。日米の10年債利回りがともに低下した場合、金利水準は「米国>日本」なので、普通は米金利の低下幅が大きくなるため、金利差米ドル優位は縮小します。だからこの時は、日本の金利低下を尻目に、為替は米ドル安・円高となったわけです。

では今回はどうか。図表3は、米ドル/円に米2年債利回りという、短期金利を重ねたものです。これを見ると、今回の日銀会合後の米ドル高・円安は、米金利から大きくかい離したものだったことが分かるでしょう。勢い付くと相場は、理屈を超えた動きになるのも決して珍しくありませんが、落ち着きを取り戻すなかで、「行き過ぎた動き」は修正が入り易くなりますから、金利及び金利差と為替の関係は引き続き要チェックではないでしょうか。

為替に限らず株式などにおいても、相場には「行き過ぎ」や「間違い」が起こることが珍しくありません。

「日銀が予想以上の金融緩和を行う」→「予想以上の円安になった」という因果関係はおかしくないでしょう。しかし、「予想以上の円安になった」という結果は、必ずしも「予想以上の金融緩和」という原因で起こったとは限りません。これまで見てきたように、ただ単に「日銀会合の後は相場がよく動く」ということに過ぎなかった可能性もあるし、米金利との関係からすると「行き過ぎた円安」だった可能性もあるわけです。

それにしても、相場においては「結果」から逆に「原因」を類推するといった因果関係の間違いに陥りやすいのは、「結果」が数字で出る以上、それは正しいはずといった前提で考えがちなためではないでしょうか。

数字で明確に示された「結果」でも、行き過ぎや間違いの可能性があることを確認する方法は、この連載でもとくに重視したテーマでした。その上で、「行き過ぎや間違いは珍しくない」という相場の本質を理解すると、相場に対して気持ちが楽になり、長く付き合えるようになるのではないでしょうか。

この記事の感想を教えてください。