はじめに

その2:マーケティング戦略

実は家賃を安定させるためにはプロダクト戦略だけだと足りません。マーケティング戦略です。ほとんどの不動産会社はマーケティングをやっていません。やっているのはセリング、販売活動です。マーケティングというのは顧客創造、お客さまをつくり出す仕組みのこと、つまり種まきです。種をまくから集客であるセリングが生きてくるわけですね。種まきをしないで集客をしてしまうと値引競争になってしまいます。

マーケティングの種まきとは、ニーズをウォンツに変える行為です。具体的に事例でご紹介したいと思います。

ターゲットの母集団、ワンルームに住む可能性がある人たちの全体がいます。その中で、家賃が安ければ安いほうがハッピーだよという人がいるんです。ほとんどの不動産会社はここをターゲットに営業をかけちゃうんですよ。

一方、普通のマンションじゃ嫌だと言っている人たち、ピカピカのアーバンラグジュアリーが好きな人たち、新築マンションデベロッパーのお客さんですね。ただ、ここって囲い込みができないんです。なぜかというと、ピカピカじゃなくなった瞬間に、ピカピカのほかの物件に移り住まれちゃうから。

では、普通のマンションじゃ嫌だと言っている人たちの中で、伝統とか趣だとか味わいだとかそういうのがホッとするよ、みたいなロハス的な人たちもいるわけですよ。ここを囲い込めればいいんじゃないか、ということで私たちがやっているのがシリーズ化なんですね。

なぜiCafeやBrickなどシリーズに名前をつけてイメージ展開しているかというと、人間は見たことがないものには欲求できない生き物だからですね。見せてあげないと、これが欲しいとはならないんですよ。だからシリーズにしてイメージ展開をしています。

180日以上かけるブランディングの結果

さて、種をまいたら何をしなきゃいけないか、育てなきゃいけないんですよね。それがブランディングです。

私たちは、まず種まきをします。例えば私たちの物件を好きそうな人が読みそうな雑誌に露出を図ります。行きそうなショップに掲載雑誌を置いてもらったり、ポストカードを置いてもらったりして、まず認知を図ります。

次に、定期的に懇親会を開催します。この懇親会で施す仕掛けは何かというと、うちのリノベーション物件に実際にお住まいの入居者さまにご参加いただいて、お部屋の自慢をしてくださいという時間をつくるわけですね。もともとそういう暮らしに憧れている集団の中で、そういう暮らしを実現している人たちが自慢を始めると、うらやましくなるんですね。私もその家具が欲しい。私もその雑貨が欲しい。私もそんなお部屋に住んでみたい。その結果、口コミが広がるわけです。

ほとんどの不動産会社は、今、目の前に仲介手数料を落としてくれるお客さんしか相手にしていないんです。でも私たちはいつ引っ越すかも分からないけれど、もし引っ越すんだったらリズムさんの物件に住みたいです、という人たちを囲い込んでいるんですね。

これはブランディングのアカデミックな定義なんですが、ブランディングというのは180日以上かけないと実現できないという研究結果があるんです。賃貸の物件を探す人たちはどのぐらいの期間で探すかというと、せいぜい2~3カ月ですよね。たかだか60日や90日でブランディングなんかそもそもできないんです。

ところが逆に、人間の集中力も3カ月ぐらいしかもたないわけですよ。ずっとこの部屋に住みたいなと思っていても、そんな意識が持続するのは3カ月ぐらいなんですね。なので、私たちは欲求を持続させるためにいろんな情報を定期的に提供するということをやっています。だから私たちは定期的に懇親会や体験のレッスンを開催し、リノベーションに触れる機会を増やし、絶対に次はリノベーション物件に住みたいという人たちを育てているんです。

その結果、私たちが達成できている2つのことがあります。1つは、私たちの入居者さまは、4割が前の入居者がいる状態でお申し込みをいただいています。前の入居者が出た状態で、ルームクリーニングをしてもらって瑕疵(かし)がないかチェックして、それから契約して引っ越し日を決めるから数カ月家賃が空くのが普通です。

ところが私たちの物件の入居者さまは何が違うかというと、まずシリーズ化した中のイメージがはじめから分かっています。古くなっても悪くならないことが分かっています。人気物件なのでほかの人に取られる可能性が高いのも分かっています。じゃあ、前の入居者がいる状態でもいいから先に申し込みますねということが実現しちゃうわけです。4年間の平均空室期間が1カ月を切る。あとは全部家賃が発生しているんですよ。これはインカムゲインの安定性そのものですよね。

もう1つは、私たちの入居者さまは場所を選びません。普通は賃貸って沿線と駅を選びますよね。そうしないと通勤・通学で不便だから。ところが私たちの入居者さまは、私たちの地道なマーケティング活動によってお部屋のファンになっていただいているので、リズムさんの物件だったら何でもいいですということで、一番はじめに探した場所と全然違うところを借りるんですね。

不動産は読んで字のごとく不動ですから、場所はいいに越したことはないんです。不動産業界って物件をつくってからお客さんを探す業界なんです。お客さんをつくってから物件をつくればいいんじゃないですか。ほかの業界はみんなやっていますよね。リノベーションだって同じですよ。先にリノベーションのファンを作っておけばいいんじゃないですかということで、私たちは6,000人の入居者待ちをつくっているわけですね。これがマーケティング戦略です。

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