はじめに

5月13日(土)、老後資金や安定した副収入を求める人たち向けに不動産投資を紹介する「不動産投資1DAYスクール」と題したイベントが品川インターシティホールで開催されました。

メディアなどで活躍する不動産の専門家、個人投資家の不動産経営をサポートする企業が一堂に会し、不動産投資のノウハウや成功の秘訣が語られました。

その中から本記事では、リズム株式会社顧問、公認不動産コンサルティングマスターの巻口成憲氏によるセミナー「成功者だけが知る! AIとリノベーションを活用した3つの戦略」の内容をご紹介します。


「妥当な価格」がわからない不動産業界の謎

巻口氏:リズム株式会社は、今年で設立12年を迎える不動産事業者です。渋谷の桜丘を拠点に事業を展開しています。

私自身は不動産よりも経営コンサルタントとしてのキャリアが長くあります。本日は経営の視点から、不動産投資で成功するための戦略についてお伝えしていきます。

不動産投資に興味をお持ちの方は、新築か中古か、都心か地方か、1棟物件か区分物件か、といったさまざまな選択肢で悩まれているのではないでしょうか。 先に結論を言わせていただくと、どれでもいいんです。ただし、「妥当な値段であれば」という条件がつきます。

例えば、ここにルイ・ヴィトンのバッグがあるとしましょう。このブランドの歴史は古く、世界中のセレブが使っていますね。「だからこれを50万円で買ってください」と私が勧めたら、皆さんは買いますか?

買いませんよね。いくら品質やブランド価値が高くても、バッグひとつに50万円というのが果たして妥当な価格かどうかはわからないですから。調べてみたら、実際には20万円で売っているものかもしれないし、ネットオークションならもっと安いかもしれません。

しかし、現実にこんなおかしな取引が日々行われている業界があります。それが不動産業界なのです。人気エリアだから、ニーズが高いから、新築物件だからといったさまざまな理由をつけて物件を勧められますが、その価格の妥当性は決して説明されません。

不動産の投資判断で一般的に使われているのは直接還元法という方法で、いわゆる表面利回りのことです。たとえば、1000万円の物件の家賃収入が年間60万円とすると、物件の表面利回りは6%になるのですが、この指標で不動産投資のパフォーマンスを図ること自体が間違っています。

表面利回りで説明できるのは今の利回りだけで、将来の家賃の下落率や、10年、20年経ってからその物件を売却しようとするときの価格はまったく考慮されていません。家賃は時間が経てば必ず下落するので、これだけでは不動産投資のパフォーマンスは判断できず、妥当な価格かどうかもわからないのです。
 
表面利回りしか判断材料がないということは、株式投資でPER(株価収益率)しかわからないというのとまったく同じです。証券会社の営業マンが「ソフトバンクは今PER11倍でお買い得です。絶対損させませんから、私を信じて買ってください」って言ったら買いますか? 買わないですよね。株式投資にはPERのほかにもPBRや移動平均線、ゴールデンクロスなどさまざまな指標があり、総合的に判断するものです。

ところが不動産投資だけは、PERに相当する表面利回りしか判断材料がない。これが不動産投資のハードルをあげている要因のひとつになっています。

将来の家賃を考えると、地方より東京のほうが落ちなさそうというのは感覚的にはわかります。実際のデータをみると、東京23区だったら30年間で28.7%家賃が下落します。これが大阪なら43.8%、名古屋だと47.3%下落します。

ただ、東京のなかでも赤坂見附と要町と八王子北野では、家賃の下落率も異なるはずです。でもそのデータが提示されることはないんです。

さらにいえば、キャップレート(還元利回り、年間純収益を投資金額で割った値)もエリアによって異なります。八王子北野と板橋本町と赤坂見附と日本橋本町では、これくらいのリターンだったら投資してもいいな思う目線は違って当然です。それがわからないと、妥当な値段がわからない。「ヴィトンのバッグを50万で買ってください」っていうのと、まったく同じ状況になってしまうのです。

投資判断には、全期間を通した利回りが必要

ここで、4150万円で表面利回りが10.66%ある札幌市の物件と、4800万円で表面利回りが7.12%の東京赤坂の物件を比較してみましょう。表面利回りしか判断材料がなければ、投資するのは札幌市の物件が有利ということになります。

しかし他の要素を見ると、札幌の物件は築9年の木造で、赤坂の物件は築32年のRC造です。果たして東京がいいのか、築浅がいいのか、RCがいいのか、わからなくなってしまいますね。

よくよく分析すると、この札幌の物件には「入居者偽装」があったことが判明しました。これは実際には入居者がいないのに、相場の倍ほどの賃料で3ヶ月程度の賃貸契約を交わし、高い家賃が取れているように見せかける偽装手段で、地方の一棟物件でよく見られます。家賃が高くなれば表面利回りは上昇するので、お買い得物件に見えるわけです。

こんな物件を購入してしまっては、入居者はつかず、想定よりも低い家賃しか設定できません。この物件も実際は半分以下の家賃しか取れず、エリアの家賃下落率も高いことがわかりました。築年数が進めばさらに価値は下がるので、全期間のパフォーマンスも悪く、1年間ごとに7%も価値が減っていく物件だったのです。

これに対し、赤坂の物件は表面利回りは7%でも、家賃の下落率はそれほど高くありません。このエリアなら、築30年でも40年でも、同じくらいの表面利回りで買い手が現れます。そうすると1年間で6%づつ回っていくという計算になりました。

結論として、投資すべき物件は赤坂になります。不動産にはこのように「IRR」という、投資全期間を通じた1年あたりの投資利回りを示す指標が使えるのですが、これを算出できる不動産業者が日本には存在しませんでした。

なぜなら、家賃の下落率や、空室率、売却価格などのデータがないからです。不動産業界には「レインズ」という標準データベースはありますが、登録は義務づけられていません。むしろ、業者は隠したがるのでだれも登録しない。データが蓄積されないので、分析もできないというわけです。

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