はじめに

「Exit Option」という言葉を私が初めて聞いたのは

以下は少々余談です。「Exit Option」という言葉を私が初めて聞いたのは、私が青山学院大学に着任して1年目のことでした。今から15年以上前のことです。

当時の研究科長(私たちが所属していた組織の長)が、やや横暴なやり方を私たち教員に求めてきたことがありました。

その時に、(私は鈍感なので気づきませんでしたが)やや派閥的というか学閥的な動きが出てきたようでした。「研究科長に反対の人は、みんなで派閥を組んで対抗しよう!」みたいな動きです。

それを敏感に察知した、ある年輩の教授が「我々も『海外PhD組』として結束しよう!」と言い出して、私たちの研究科に所属していた教員の中で、海外でPhD(博士号)を取った人材を集めて食事会のようなことをしたことがありました(そもそも、海外でPhDを取ろうとするような人は、私も含めて、派閥や学閥のようなことが大嫌いで海外に飛び出している人が多いので、この集まりは、「1回限り」になりましたが。笑)。

その食事会は、研究科長の運営方針について気に入らない点を整理しようという主旨で集まった会合だったので、食事会での話題は当然ながら、当時の研究科長に対する不満に及ぶわけです。いくつかの意見(不満)が出たところで、ある准教授がこう言いました。

「いや~、まぁ、ホントに不満ならば、私たち海外PhD組には『Exit Option』がありますから、どこか他の大学に移ればいいんですよ」

海外でPhDの学位を授与された人材というのは、(今はどうかはわかりませんが)当時は比較的レアだったので、「移籍を希望すれば、どこかの大学では採用してもらえる」という意識を持つのも無理もない感じだったと記憶しています(やけに「上から目線」ではありますけど)。

この発言を聞いた時、「うわ~、エリート意識が強い人は、こんなことを考えるんだな~」と思い、ちょっと引きましたが、この発言の中にあった「Exit Option」という言葉だけは、やけに心に残りました。

ここで言いたいことは、「Exit Optionを持っていると、まずは、職場でイヤなことがあっても耐えることが容易になる」ということです。いつでも逃げ出せるからです。

また、この准教授が言った「Exit Option」の意味は不完全なものだったと今では思います。というのも、この准教授が言ったのは、「イヤなら他の大学に移れる」ということでしかなく、「イヤなら辞められる」という意味ではなかったからです。「イヤなら他の大学に移れる」といっても、移った先の大学でもイヤな思いをしたら、また移るの?それで、どこに移っても、どこもかしこもイヤだったらどうするの?こんな疑問が生まれますよね。

完全な意味での「Exit Optionを持っていること」というのは、「イヤなら辞められる(引退できる)」という状態であると思います。そのためには、「盤石の経済的基盤」を構築する必要があります。「ほぼ間違いなくどこかの職場で採用してもらえる学位や資格」を持つことよりも強力なのは、どこの職場に行かなくても、生活していけるだけの「盤石の経済的基盤」を持っていることです。

「Exit Option発言」をした准教授も、「海外のPhD」は持っていましたが、「盤石の経済的基盤」は持っていなかったと思います(その准教授の正確な経済状態は、知る由もありませんでしたが)。

「ほぼ間違いなくどこかの職場で採用してもらえる学位や資格」を取ることも「盤石の経済的基盤」を構築することも、どちらも困難なことではあります。しかし、私の経験では、「ほぼ間違いなくどこかの職場で採用してもらえる学位や資格」を取ることよりも、「盤石の経済的基盤」を構築することのほうが簡単です。

簡単なのに強力。ならば、それを狙うのが得策ですよね。

60歳までには「経済的自由」の基盤を確立しましょう!

3つ目の提言は「60歳までに、遅くとも65歳までには『経済的自由』の基盤を確立しましょう!」です。

好きな仕事なら60歳以降も、もちろん続ければいいと思いますが、イヤじゃない仕事であれば、60歳くらいが辞め時です。人間、60歳くらいになると、それまでイヤじゃなかった仕事でも、「イヤ」になってきます。身体は疲れやすくなりますし、仕事には完全に飽きますし、気力も萎えてきます。

経済的な必要性から、辞めたくても辞められないのであれば話は別ですが、60歳までに「経済的自由(Financial Freedom)」の基盤を確立してあれば、やはり60歳くらいが辞め時だと思うのです。

日本人である我々には、「そんな子供みたいなわがままを言っちゃ、ダメ!」というような倫理観が刷り込まれていますから、なかなか正直になりにくいですが、「経済的自由」を前提にして、本当に素直な気持ちに従うならば、好きな仕事でない限り、60歳前後で撤収したほうがいいでしょう。そのために60歳までに、遅くとも65歳までには「経済的自由」の基盤を確立しましょう!というわけです。

60歳を過ぎたら、「仕方なく働く」をやめましょう!

4つ目の提言は「60歳を過ぎたら、『お金のため、生活のために、仕方なく働く』ということを回避しましょう!」です。

本書の目的は、「60歳を過ぎても、経済的な必要性から、仕事を辞めたくても辞められない人」をできるだけ少なくすることです。30代や40代で、いわゆる「ヤンリタ」をする人というのは、「人生で余暇を楽しむ」人です。ですから、はっきり言ってしまえば「そんなこと、できてもできなくてもどっちでもいいこと」です。

一方、60歳でヤンリタするのは「不本意な苦痛からの解放」ですから、これは「ぜひともできるようになりましょう!」ということなのです。

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