はじめに
税制優遇を受けながら老後のための資産形成ができるiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入対象が2017年に拡大。これを受けて2017年2月11日(土)、「資産形成・iDeCo 1DAYスクール」と題するイベントが開催されました。
金融機関や運用会社から投資の専門家が集まり、iDeCoや老後の資産形成について語られたセミナーの中から、楽天証券株式会社 楽天証券経済研究所 兼 投信・DC事業部でファンドアナリストを務める篠田尚子氏による「ファンドアナリストが考える確定拠出年金」と題した講演の内容をご紹介します。
資産はまず「守る器」と「増やす器」に分けよう
篠田氏: 楽天証券経済研究所でファンドアナリストをしております篠田と申します。ファンドアナリストとは一言で申し上げると「投資信託の専門家」です。
日本では昔から、投資信託は証券会社や銀行など販売窓口の力が強かったという事情があり、投資信託の専門家がなかなか育ってこなかったという経緯があります。
一方で、確定拠出年金の本場でもあるアメリカでは、私と同じように専門家として投資信託の分析や目利きをしている人が数多くいます。投資信託の情報を提供する会社としてはモーニングスターが有名ですが、私はモーニングスターのライバル会社に在籍し、個別の投資信託の分析や市場分析などを手がけてきました。
日本の確定拠出年金は制度がスタートして16年ほどになりますが、私も個人的に12年にわたってこの制度を利用して運用を続けています。今日は投資信託の専門家としての立場と、個人的な体験談も交え、2つの視点からお話させていただきます。
まず第一に、iDeCoの活用や資産運用を考える以前のお話として「お金を管理する器を使い分ける」ということを覚えていただきたいと思います。お金を入れる器には2つあります。ひとつは「守る器」で、もうひとつが「増やす器」です。
これはとても重要な資産管理の基本なのですが、実際にはこの振り分けができていない方がとても多いと感じています。これができていないと、投資にチャレンジしても失敗することになりますし、「iDeCoをどう活用したらいいかわからない」という方の多くはこうした使い分けを理解されていないようです。
「守る器」に入れるお金は当座で必要になるお金と、何かがあったときのために備えておくお金で、預金あるいは保険を活用します。
私が「守る器」に入れているお金は、ほぼ定期預金です。ネット銀行で2週間といった短期の定期預金が提供されているので、それを自動継続しています。中には普通預金に何百万と入れている方もいますが、普通預金はキャッシュカードで引き出せてしまうのでセキュリティの面でちょっと心配ですね。保険に関しては、掛け捨てのシンプルな入院保障に絞って加入しています。
ただご存知の通り、日本はマイナス金利下にあるので、預金や保険ではお金を守ることはできても増やすことは難しい状況です。
そこで増やしたいお金は「増やす器」に入れます。私は増やす器のお金はiDeCo、NISA(少額投資非課税制度)、そして証券会社の特定口座で管理しています。これらの制度はすべてお金を増やすために用意されているしくみです。その中身はというと、株式を対象にした投資信託が基本で、これをほぼ「ほったらかし」にしています。証券会社に所属していて個別株を保有できないという理由もありますが、毎日忙しく働いていますし、休日は趣味も楽しみたいので、頻繁な取引は一切やっていません。
ちなみに、もうひとつ、どちらの器にも属していないお金もあります。これが「ふるさと納税」です。節税メリットや返礼品が注目されて、最近とても人気になっています。ただ注意していただきたいのが、ふるさと納税の節税効果というのは、お金が貯まるものではないということです。私も利用していて、返礼品を受け取ることでお得感は感じていますが、無理に利用するようなものではありません。まずは、守りたいのか増やしたいのかを意識して、お金を振り分けていただきたいと思います。
確定拠出年金はグローバルスタンダード
では本日のテーマであるiDeCoのお話に入っていきます。まず理解していただきたいのは、この制度は公的年金に上乗せするお金をご自身で運用していただく仕組みだということです。
なぜ今、iDeCoがこんなに注目されているかというと、2017年1月から制度が変わり、これまで加入対象ではなかった専業主婦や公務員に対象が広がり、ほぼすべての現役世代の方が加入できるようになったからです。制度自体は16年前からありましたが、加入できる方が限られていたため、日の目を見てこなかったという経緯があります。
ちなみに海外では、アメリカをはじめ、イギリスやイタリアといったヨーロッパでも普及しています。アジアでも中国や韓国で導入されています。
というのも日本に限らず先進国では少子高齢化が進んでいるので、同様な問題を抱える国では対策のひとつとして確定拠出年金が導入されているのです。
つまり、確定拠出年金は日本独自の制度ではなく、グローバルスタンダードになりつつあるといえます。
iDeCoは、加入者が自分で掛金の額を決めて運用します。掛金は毎月5,000円以上、定められた上限までの範囲で自由に決められます。運用する金融商品も自分で決められ、途中で変えることもできます。
貯めたお金は60歳以降に受け取りをスタートできます。60歳以降70歳までであれば自分で好きな受け取りタイミングを選べます。毎月いくら積み立てるか、どんな金融商品で運用するか、どのように受け取るかというところも自分で決められるという、とても柔軟性がある制度なんですね。